AMGの電動車「EQS53」乗ってわかった破格の実力 走りは強烈かつ滑らか、ただし情緒はいま一歩

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ややガジェット感のあるインテリアだがマッチングは悪くない(写真:メルセデス・ベンツ)

パームスプリングス近郊のワインディングロードでは、その軽やかな身のこなしに大いに驚かされた。その車体の大きさ、重さからは想像できないくらいステアリング操作に呼応してグイグイとよく曲がるのは、フロントにエンジンが無い分、優れた前後重量配分、床下にバッテリーを敷き詰めているが故の低重心に、四輪操舵が効果を発揮しているのだろう。

一方で、調子に乗ってブレーキが遅めになった時などは、マスの大きさを感じて一瞬息を呑むことも。実際はそう簡単には何事も起こらないのだが、車重があるだけに挙動が乱れたら修正は容易ではないと思わせるのだ。

確かにヘルマンCTOが言っていたように、BEVになってもその走りはメルセデスAMGの世界をしっかりと体現していた。弱点はやはりその重さなのだが、しかし走りの質という意味では、これをうまく良いほうに使っている。この辺りのバランス感覚は良い。

人工的な効果音は微妙

ただし、1点だけ。例のAMGサウンドエクスペリエンスは賛否が分かれそうだ。このクルマ、いろいろな場面で室内にはこのサウンドジェネレーターが奏でる電子音が響くのだが、これがちょっとゲームっぽいのだ。ドアを閉めると「ブゥーン!」と鳴り、アクセルを踏んで加速していくと「ギュイーーーン!」と盛大な効果音が奏でられる。エンジンを模したような音もどうかと思うが、SFの宇宙船のようなこの音も私としては微妙かなと感じた。

まさに1人のマイスターが工程の最初から最後まで一貫してエンジンを組み立てる「ワンマン、ワンエンジン」の哲学によって生まれた高精度なエンジンから発せられるリアルな咆哮に惚れ込んでいたこれまでのAMGファンが、はたしてこんな電子音で納得するだろうか? サウンドをオフにしたら味気ないだろうとも思うが、おそらく私なら普段はオフにして乗るだろう。

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ラグジュアリーを究めたメルセデス・ベンツにとっては、静かで滑らかで力強い電気モーターを用いたBEV化は、益するところも大きい。しかしながらメルセデスAMGにとっては、性能はいいとしてこの情緒という部分で、まだ課題があるというか答えが出ていないというか、そんな気がしたというのが正直なところである。

これからはメルセデスAMGに限らず、スポーティーさを信条とする多くのブランドが、こうした課題に直面することになる。電動化はやはりひと筋縄ではいかない大変革なのだ。

巨体をものともしない走りを見せる(写真:メルセデス・ベンツ)
島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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