仏マクロン大統領「反ワクチン論者」猛烈批判の訳 波紋を呼んだ発言の背景には4月の大統領選

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大統領が「emmerder」という言葉を使ったのは、今回が初めてではない。1962年、当時のド・ゴール大統領はモナコがフランス人のタックスヘイブンとなっていることなどにいら立ちを募らせて同国に対する経済封鎖を実施。「モナコが我々にとって面倒ならば、封鎖すればいい」と語った際、この言葉を口にした。

ポンピドー元大統領も首相時代の1966年、官房のスタッフが署名するよう自らに差し出した山のような政令を前に、「emmerder」という言葉を用いて「この国には多くの法律や規制がある。フランス人を困らせるのはやめろ」と怒ったというエピソードがある。

ただ、二人の元大統領の発言をマクロン氏のそれと同列で論じるのは難しい。トップの失言として記憶に新しいのは2008年、サルコジ元大統領が農業見本市の会場を訪れた際に発した言葉だ。見学に来た人たちと握手をして回る同氏が来場者の一人に触れたところ、「さわらないで、汚れるだろ」と反応。サルコジ氏が思わず、「とっとと失せろ、バカ野郎」と口走ってしまった。

もっとも、サルコジ氏の言葉は口を衝いて出たもの。これに対してマクロン氏の発言は「計算されていた」(RTLのドヴァ記者)との見方が出ている。実際、フランスのニュース専門放送局「フランスアンフォ」の電子版によれば、「大統領府の複数のアドバイザーがインタビュー記事を読み直したが、否定はしなかった」。野党などの反発も想定内なのだろう。

マクロン大統領の「真意」

そこには、大統領選を有利に進めようとの思惑が見え隠れする。マクロン氏は正式に立候補を表明していないが、出馬が濃厚。対抗馬として急浮上する中道右派の最大野党、共和党の候補に女性で初めて選出されたぺクレス氏の気勢をそぎたいとの狙いがありそうだ。

仏大統領選は1回目の投票で過半数を獲得した候補がいなければ、上位2名による決選投票が行われる仕組み。エラブが12日に公表した世論調査によると、1回目ではマクロン氏が23%で最も多く、ぺクレス氏とル・ペン氏がいずれも17%で2位。次いで、ゼムール氏13%の順となった。

一方、2回目でマクロン、ル・ペン両氏の決選投票になった場合、得票率はマクロン氏の54.5%に対し、ル・ペン氏は45.5%とマクロン氏勝利を予測。ところが、マクロン、ぺクレス両氏の組み合わせだと得票率はいずれも50%と拮抗。マクロン氏再選の行方は混とんとしている。

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