半導体の地政学に劇的変化をもたらすNTTの技術 光による情報処理でデータ社会の変革目指す

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半導体が世界産業を支配しつつあるなか、半導体をめぐる地政学が変化している(写真・Graphs/PIXTA)
世界的な半導体不足の中、半導体のバリューチェーンのボトルネックとなる要衝は、世界にいくつかある。高度な製造技術を握る台湾のTSMCはその筆頭であり、基本回路をライセンス供給する英国のアーム、微細加工の製造装置を独占するオランダのASMLもその一つだ。これらの要衝を抑える国家や地域がバリューチェーンを制する力を持ち、サイバー空間で強国となる。いまの日本には、残念ながら要衝と呼べるほどの企業はいない。
だが、半導体の地政学の地図は、新しい技術が登場するたびに塗り替えられていく。戦いはすでにある要衝を奪い合うだけではない。いま要衝が手中にならいのならば、新しい要衝を国内に築けばいい。日本の挑戦は始まっている。その一端を、日本経済新聞編集委員の太田泰彦氏による新書『2030半導体の地政学』より一部抜粋・再構成してお届けする。

光トランジスタを生み出す

NTT物性科学基礎研究所の納富雅也は、達成感と驚きが入り混じった奇妙な気分を味わっていた。光信号と電気信号を組み合わせた「光論理ゲート」の動作を、チームの若手が確認したときである。これまで多くの研究者がたどり着けなかった発明だった。

「これはもしかしたら、ものすごいものができてしまったのかもしれない……」

2020年3月、納富のチームが一連の研究にもとづく成果を発表すると、世界の学界に衝撃が広がった。

NTTで研究開発部門を率いる常務の川添雄彦は、この光電融合素子が「すべての始まりだった」と語る。研究チームが開発したのは、電気と同じ動作をする光のトランジスターやスイッチである。電子回路は電気の流れで信号を処理するが、この技術を使えば電気の代わりに光で動く超高速の半導体チップをつくれる可能性がある。銅でできた電線より光ファイバーの方が圧倒的に速いのと同じ原理だ。

NTTのIOWN(Innovative Optical and Wireless Network = アイオン)構想は、こうして生まれた。電気ではなく光で情報処理する世界を築き、デジタル技術を丸ごと塗り替える――。社長の澤田純の号令の下、旧電電公社の巨艦が動き出した。

考えてみれば、私たちはこれまで電気に縛られてきたのかもしれない。たとえば大きな画像をメールで送るときにファイルを圧縮するが、これは一度に送れる情報の量に限りがあるからだ。半導体チップに微細な回路を詰め込むのは、チップのなかで電流の移動距離を短くするためである。これらは、いわば電気の側の都合であり、コンピューターがうまく仕事ができるように、人間の側が知恵を絞らなくてはならなかった。よくよく考えれば、本末転倒ではないか。

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