半導体の地政学に劇的変化をもたらすNTTの技術 光による情報処理でデータ社会の変革目指す

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常務の川添がよく使うたとえが、海に生息するシャコの視覚だ。人間の目は赤、青、黄の3原色だけに反応し、脳の中で3色を合成することでさまざまな色として認識するが、シャコの目には12種類の波長を識別する受容細胞がある。目から得られる情報量は人間よりシャコの方が圧倒的に多く、それだけ脳の機能は簡単になる。人間の場合は、脳が情報処理で忙しいため、知恵熱も出るし、時にはパンクすることもある。シャコは人間より豊かな景色を見ながら、悩むことなく暮らしているのかもしれない。

NTTが開発した光トランジスタの電子顕微鏡写真(写真・NTT提供)

脳で難しいことを考えないので、脳内の信号の扱いに遅延が生じない。12色に体が直接反応し、獲物を素早く捕る動作ができる。捕食という価値観の下で、シャコは生存競争の末に、生物界最強の目を獲得した。では、人間の価値観とは何だろう――。

さらなる高速、大容量、省エネのデジタル社会が可能

これまでデジタル技術は、必要な情報だけを残して、あとは省くことで成り立っていた。光電融合の技術を発展させれば、アナログの自然界を丸ごととらえて情報として処理する道が開ける。電気だけではできなかった、高速、大容量、省エネルギーのデジタル社会も夢ではない。そこに人間にとって新しい価値を生み出せるのではないか……。

通信会社であるNTTは、もともと光の技術が強かった。これまでは光は通信の手段であり、情報処理は電気の仕事だという通念がある。だが、その壁を光電融合技術が破るかもしれない。

コンピューター同士をつなぐ回線に使われている光ファイバーは、光を電気に変換する素子を小型化することで、半導体チップの入り口と出口までたどり着いている。光電融合素子の発明によって、今度はさらに光がチップの内部にまで入り込む。電気に代わってチップのなかを光が走り回る――。

NTTは構想の目標を2030年に据えた。それまでに光電融合技術を使って何らかの製品、サービスを世の中に送り出し、光の世界が夢ではないことを示したい。企業である以上、研究開発で成果をあげ、大きな社会構想を描くだけでなく、カネを稼ぐビジネスに仕上げなければならない。

経営が動いた。2020年6月にNECに出資して、同社の第3位の株主となった。21年4月には子会社を通して富士通と資本提携した。通信事業者であるNTTが、モノづくりの領域に下りていき、実体のある製品・サービスにつなげる布石である。20年9月には、4兆3000億円を投じてグループの稼ぎ頭であるNTTドコモを完全子会社化すると発表し、収益の基盤を強くした。

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