半導体の地政学に劇的変化をもたらすNTTの技術 光による情報処理でデータ社会の変革目指す

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インターネットのおかげで、人々は国境を越えて自由に情報をやり取りできるようになった。それが いまでは逆に、インターネット自体がボトルネックになっているのだ。誰もが平等に情報化の恩恵を受け、技術の面で自由と民主主義の進展を支えてきたが、これから先は公平性が薄れ、むしろ民主主義を阻む壁になるかもしれない。IPアドレスを配分する者が権力を握る。姿が見えないインターネットには、そんな恐ろしい側面がある。

125倍の伝送容量、100分の1の電力消費を目標にするIOWNの構想が実用化すれば、米国が築いたインターネットの殻を破ることができるかもしれない。研究所の納富のチームが10年以上の歳月をかけて生み出した光電融合素子は、それだけの破壊力を秘めている。

NTTだけの技術で世界を揺り動かせるか

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NTTは2019年10月に「IOWNグローバルフォーラム」を立ち上げた。世界各国のデジタル企業と連携する枠組みを設け、米国のデラウェア州で法人として登記した。NTT1社ではインターネットを変革することなど到底できないからだ。世界を変えるには、まず仲間づくりから始めなければならない。日本では、まずソニーが仲間に入った。

米国からはインテルが中核メンバーとして参加し、マイクロソフト、デルなどの主要なデジタル企業も続々と集まってきた。2021年秋の時点で参加企業は約70社ある。ただし中国企業は入っていない。

NTTが最も気にしているのは中国との関係だろう。米国で登記したのは、米国の法律で守られながら、仲間づくりを進めるためである。いまの日本の法律では、中国企業が参加したいと言えば断ることはできない。

構想の土台となったNTTの光電融合素子は、日本の安全保障に関わる戦略的に機微な技術だ。今この素子をつくれるのは、世界でNTTだけである。日本が世界を揺り動かすことはできるだろうか――。

光の世界を実現するには、何兆円もかかるであろう開発資金を調達し、インターネットの始祖である米国の同意を取りつけて巻き込まなければならない。開発が進めば、やがてその先に現れるのは技術をめぐる国際政治の荒波である。

その壁の高さもまた計り知れない。

太田 泰彦 日本経済新聞編集委員

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おおた やすひこ / Yasuhiko Ota

日本経済新聞編集委員。1961年生まれ。北海道大学理学部卒業、1985年に日本経済新聞社入社。アメリカ・MIT(マサチューセッツ工科大学)に留学後、ワシントン、フランクフルト、シンガポールに駐在し、通商、外交、テクノロジー、国際金融などをテーマに取材。1面コラム「春秋」の執筆を担当した。2004年から21年まで編集委員兼論説委員。中国の「一帯一路」構想の報道などで2017年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。著書に「プラナカン 東南アジアを動かす謎の民」など・

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