米軍事専門家が懸念する日本の防衛費の「使い道」 日本が何を優先すべきかを専門家に聞いた

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が、それは本当に正しい考えなのだろうか。そこで今回筆者は、日本の安全保障に詳しい専門家に「日本が年間1000億ドルの防衛費を費やせるとすれば、アメリカから見た日本の最優先事項は何か」と尋ねた。

これにさまざまな専門家が答えてくれた。オバマ政権の元国防担当官で、現在はニュージーランドで教鞭をとっているヴァン・ジャクソン氏、同じくオバマ政権の元国防担当官で、現在はワシントンD.C.の笹川平和財団USAで同盟安全保障関係に関する新しいプログラムを主導しているジェームズ・ショフ氏、元情報機関高官で、保守派のヘリテージ財団で北東アジアに関する上級研究員を務めるブルース・クリングナー氏、マサチューセッツ工科大学(MIT)のアジア安全保障研究者であるエリック・ヘギンボッサム氏とリチャード・サミュエルズ氏である。

日本は防衛システムに資金を投じるべき

その結果、わかったことがある。アメリカの防衛専門家はほぼ全員、日本の保守派と逆方向に傾いている、ということだ。多くは、防衛システムを支持しているほか、北朝鮮や中国が攻撃してくる可能性がある場合に生き残る能力を強化し、中国の海・空軍による侵入を阻止する日本の能力を拡大すべきだと考えているのだ。

前方防衛と侵入阻止のためには、敵を探知するためのレーダーなどのセンサーや、前進してくる中国の軍艦を沈めたり、攻撃してくる航空機を破壊するための武器などに、より多くの予算が必要になるとアメリカの専門家たちは主張している。

専門家の大多数は、支出の増加を歓迎しているが、徐々に増やしていくべきであると認識している。しかし優先順位としては、日本がいかにして自国を守り、北東アジアにおけるアメリカの広範な軍事構造を補完できるかに焦点を当てている。

ジェームズ・ショフ氏は、鋭い体毛で身を守るヤマアラシになぞらえて、「日本の最良の戦略は、可能な限り最も凶暴なヤマアラシになることだと私は今でも信じている」と語る。防衛専門家として著名なショフ氏は、日本は「誰もが積極的に(あるいはギリギリまで)手を出したくない存在」である必要があると説く。また、主にミサイルに対する防御を強化し、攻撃側の空軍や海軍を危険にさらすための追加予算を提唱している。

ショフ氏らは、ミサイル防衛と、C4ISR(4つのC、つまり指揮(Command)、統制(Control)、通信(Communication)、コンピューター(Computer)と、情報(Intelligence)、監視(Surveillance)、偵察(Reconnaissance))と呼ばれるものに不可欠なハイテク技術の開発が優先事項だとしている。

これは、広範囲のセンサーやデータ処理からサイバーディフェンスまで含まれる。電子戦やサイバー戦にはもっと資金が必要だとしているが、アメリカ側から見た優先順位はさほど高くない。

またアメリカは、日本がイージス艦のミサイル防衛システムを陸地に置くことをやめ、代わりにイージス艦を搭載した船に移すという決定に懐疑的である。

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