消費増税、影響が「想定内」でなかったワケ なぜ日本経済の回復は遅れているのか

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消費増税が短期的には景気にマイナスだからといって、いつまでも先送りすることは、財政破綻のリスクを次第に高めて行ってしまう。増税を進めず現状維持をすると、破綻までのタイムリミットがさらに短くなり、より急ピッチの増税が必要になる。増税による経済へのマイナスはより大きな痛みを伴うものとなり、ますます増税が実現し難くなってしまい、さらに状況が悪化するという悪循環に陥る。これを避けようとすると、どうしても増税後の経済の姿として楽観的なものを提示して増税を前進させようということになる。

増税のために、楽観的な見通しが示されがち

2010年に23%だった日本の高齢化率(65歳以上人口が総人口に占める割合)は、2060年には39.9%にも達する。日本に残された道は長期間に渡って少しずつ増税と歳出抑制を続けるしかない。政府は一度限りであれば、楽観的な見通しで国民を鼓舞して改革を推し進めることが可能かもしれないが、何度も繰り返して国民の期待を裏切れば、信頼を失うおそれが大きい。

「景気は気から」ということもしばしば言われて、慎重な見通しや予測は、せっかく盛り上がっている世間の雰囲気を悪くするとして批判されることも少なくない。しかし、今回の消費税率引き上げに伴う在庫の増加は、楽観的な見通しが引き起こしたものではないか。

増税の影響により、4月の鉱工業生産指数は前月比マイナス2.8%と低下したが、増税の影響が正しく認識されていれば、もっと大きなマイナスになった可能性がある。しかし、一方で、その後の在庫の積み上がりはこれほど大きくはならず、低迷をより短期間で終わらせることができたかも知れない。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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