沖縄の感染爆発に見えた「日米地位協定」の泣き所 ワクチン過信の米軍クラスターと相手任せの外交

✎ 1〜 ✎ 207 ✎ 208 ✎ 209 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

日米地位協定の所管である外務省は、在日アメリカ軍との間で、日本の水際対策に近い「整合的」な措置を取ることを確認していたが、9月以降の方針転換を知らされていなかった。ただし、10月以降に入国直後のアメリカ兵が基地内をマスクなしで自由に歩き回るようになると、日本人基地従業員の組合である全駐労沖縄は、従業員の安全のために基地内でアメリカ兵がマスクを着用するよう繰り返し団交している。

制度ではなく運用の問題

全駐労沖縄の要請は沖縄防衛局にも上がっていた。もし、防衛省が同じ要請を在日アメリカ軍司令部と国防総省に行っていれば、感染状況がここまで悪化することは防げたのではないか。

また、沖縄には外務省の国内唯一の出先機関である沖縄事務所もあり、在沖アメリカ軍の渉外担当部署である基地政務外交部と定期的に連絡を取り合っている。沖縄を歩いていれば、基地の外でもマスクをせず歩いているアメリカ兵が目につくのに、なぜ沖縄事務所は基地政務外交部に状況を確認しなかったのか。

『日米地位協定-在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

このように、今回、アメリカ軍基地で発生したクラスターとその影響の深刻さは、日米地位協定の制度の問題以上に、運用上の努力の部分が問われなければならない。

日本と同内容の地位協定をアメリカと結んでいる韓国では、感染拡大に伴う同国の新たな水際対策に沿って、在韓アメリカ軍が12月3日から入国直後のアメリカ軍関係者に到着初日と1週間後の2回、PCR検査を受けさせ、それまで容認していた自宅と職場との間の移動も禁じている。これは韓国政府の政治交渉の結果だ。

同盟国間の信頼関係は不断の努力なくしては成り立たない。日本の相手任せの外交では事態が好転するはずもないのである。

山本 章子 琉球大学准教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

やまもと あきこ / Akiko Yamamoto

琉球大学人文社会学部国際法政学科准教授。1979年北海道生まれ。一橋大学法学部卒。編集者を経て、2015年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。沖縄国際大学講師、琉球大学専任講師などを経て2020年4月から現職。専攻・国際政治史。著書に『日米地位協定 在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書)、『米国と日米安保条約改定――沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年、日本防衛学会猪木正道賞奨励賞受賞)など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事