マクロ経済スライドは、2004年の年金制度改正で導入されて以降、23年間で2015年度と2019年度と2020年度の3回しか発動されていない。特に、初めて発動されたのが制度導入から10年経ってからだったこともあり、発動されないことにより年金財政の持続可能性に支障を来しうるとして、マクロ経済スライド調整率にキャリーオーバー制を設けることとした。2018年度の年金額改定以降においてである。
キャリーオーバー制とは、前述の名目下限措置によってマクロ経済スライドが発動されなかった場合、その調整率分を翌年度に繰り越す仕組みである。
2018年度の年金額改定で、マクロ経済スライドが発動されず、早速キャリーオーバー制が適用され、マイナス0.3%分が2019年度に繰り越された。
2019年度は物価上昇率が上がったことから、名目下限措置には該当せず、マクロ経済スライドが発動されることとなったため、2018年度からキャリーオーバーされた分も含めて年金額改定率に反映された。
2022年度は2年連続のキャリーオーバー
2021年度には再び名目下限措置に該当して、マクロ経済スライドが発動されず、その調整率マイナス0.1%が2022年度に繰り越された。そして、2022年度も、前述のとおりマクロ経済スライドが発動されず、2年連続でのキャリーオーバーとなった。これにより、2年分合計の調整率マイナス0.3%が2023年度に繰り越される。新型コロナウイルス禍という状況下とはいえ、2年連続でのキャリーオーバーは、制度導入後初めてである。
キャリーオーバーされた分は、近い将来いずれマクロ経済スライドが発動されれば、年金額改定に反映されるから、そのときにはマクロ経済スライドが毎年度発動されたも同然となる。だから、一時的にキャリーオーバーされたところで、年金財政の持続可能性に疑義が生じることはない。
しかし、キャリーオーバー制が導入された2018年度以降、5年のうち3年はマクロ経済スライド調整率がキャリーオーバーされている。こうも頻繁にキャリーオーバーされていると、いざマクロ経済スライドが発動されるときには、年金額改定率を大きく引き下げることとなり、激変が起きる恐れがある。
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