OPEC減産で上昇した原油価格、当面はイラクの動向が焦点に(2)
原油価格上昇が問題になるのは、回復傾向を示しつつある日本の企業業績への影響だろう。ただでさえ1ドル110円台に迫った円高によって、牽引役である自動車や精密など輸出産業の伸長にブレーキがかかりつつある。金利も上昇中だ。ここでさらに原油高が重なることは、せっかく上向き始めた景気上昇に冷や水を浴びせかねない。
石油会社の場合、現段階で原油高を理由に業績修正した企業はない。元売り大手では、新日本石油(5001)、昭和シェル石油(5002)などが、もともと減益予想。まだイラク戦争が終わる直前だったため、期初に抱えた在庫水準(価格ベース)が高いことが今期の足を引っ張る要因である。これからの問題は「この原油高を小売りに対する卸値にどこまで反映できるか」(大手証券アナリスト)。もちろん価格転嫁にはタイムラグがあるうえ、ガソリンスタンド(SS)など店頭での価格競争も依然厳しい。さらに新日石は子会社のデータ改ざんによる製油所の停止、また非上場ながら出光興産は地震に伴う火災発生など、業界で不祥事・事故が重なっており、減益幅が拡大する公算は否定できない。
他産業ではどうか。まず航空では燃料費の高騰が響きそう。実際に全日本空輸は減産決定の報道後、株価も売り圧力が高まり、300円割れまで下がった。また化学でも住友化学工業や三井化学などに、やはり原料高への懸念から市場では売りが波及していった。ちなみに公益企業である電力会社やガス会社の場合、「原燃料費調整制度」がある。このため、為替や原油で一定以上の急騰・急落があっても、電気料金やガス料金に値上げ・値下げで転嫁することになっており、中立要因だ。
もっとも、今後もこの原油高が続くかどうか、定かではない。
OPECの減産決定に対しては、ロシアが価格支持政策に賛意を表明。しかし一方で、米国ではエイブラハム・エネルギー長官が懸念を表したうえ、メキシコやノルウェーでも減産はしない方針を打ち出した。さらにそもそもの減産決定の原因ともなったイラクは、ウルーム石油相が自ら総会で大増産への意欲を示している。イラクは強制すれば脱退すらしかねない、OPECにとっての“火薬庫”である。減産決定は、近い将来の原油暴落に対する、不安の裏返しとも言える。
一部では、原油の先安懸念に歯止めがかかった程度で、「減産効果は短期的」(業界関係者)との見方も浮上している。そうなれば12月の次期総会での追加減産もありえなくはない。当面は政治情勢も含めたイラクの動向を、冬場の需要期入りを前に、横目で見ながらの相場睨みとなるだろう。日本でも経済産業省や関係企業は今のところ静観しており、すぐに暴騰・暴落に結びつくような事態ではないのではないか。
(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部
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