パリ―ウィーン間「夜行列車」14年ぶり復活の意義 環境問題が後押し、路線網拡大はさらに進むか

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毎年6月と12月の第2日曜日に実施される、ヨーロッパ全土の鉄道ダイヤ改正。そのたびごとに消える列車もあれば新しい列車の誕生もある。

しかし、少なくとも20世紀後半から21世紀にかけては、高速列車以外の列車にとっていいニュースは多くなかった。LCCの台頭や高速路線バスの規制緩和による参入数増加は、在来線の旅客列車にとって脅威となり、鉄道は徐々に競争力を失っていった。ウィーン―パリ間の直通列車は、2007年6月にLGV東ヨーロッパ線(フランス国内高速新線)の開業によって廃止され、その中には夜行列車も含まれていた。

ところがこの数年、その傾向に変化が見られるようになった。ヨーロッパ全体で環境問題が声高に叫ばれるようになり、1人当たりの温室効果ガス排出量が多い航空機やバスより鉄道を利用したほうがいいという風潮が徐々に広まっていったのだ。とりわけ、若い世代を中心にこうした声が広がり、在来線を含めた鉄道利用者がはっきりと増加傾向を示し始めた。中にはオランダのように前年比13%も利用客数が増加(2019年)した国もあったほどだ。

「オリエント急行」の復活

ほぼ時を同じくして、ドイツ鉄道(DBAG)の夜行列車ブランド「シティナイトライン」を引き継いで「ナイトジェット」をスタートさせたのがオーストリア鉄道だった。

ドイツ鉄道は赤字を理由に夜行列車事業から撤退したが、ナイトジェットは2016年12月の営業開始以来順調に業績を伸ばし、路線網も毎年拡大。オーストリア鉄道は、今後数年間に複数のナイトジェット路線を開設させる計画を立てているが、2021年12月12日から始まる冬ダイヤでは、ウィーン―パリ線とチューリヒ―アムステルダム線の運行開始が注目を集めていた。

2007年まで運行されたオリエント急行の行先表示(筆者撮影)

とりわけウィーン―パリ線は、大きな意味を持つ路線であった。この列車が走るルートは、かつてのオリエント急行が走った路線をほぼ忠実にトレースしているのだ。ここで言う「オリエント急行」とは、日本人に有名な豪華観光列車ではなく、正真正銘の営業列車、つまり「正統」オリエント急行を指す。現在の観光列車が運転されるようになった後も、オリエント急行は区間を短縮しながら運行を継続し、その名は2009年まで残っていた。

2007年6月、夏ダイヤ改正でLGV東ヨーロッパ線が開業すると、フランス国鉄(SNCF)はオリエント急行のパリ―ストラスブール間を廃止し、パリからのTGVに接続するダイヤに変更した。だが、乗り換えなしで移動できるメリットがなくなれば、パリ―ウィーン間をわざわざ鉄道で移動しようという人はほとんどいない。案の定、わずか1年半後の2009年12月、冬ダイヤ改正でオリエント急行は完全にその姿を消した。

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