大崎洋・吉本興業社長--タレントや芸人と一緒に次の100年を考えたい
──非上場の選択理由に、将来のビジネス規模を明確に説明しづらいというのがありました。
難しい。そもそもお笑いをやっている理由だって、アメリカの投資家には説明できない。会社としては当然、事業継続しなければならないし、利益を求める必要もある。それはわかっているが、方向性みたいなところで時にはギャンブルをしないといけないところはある。だから上場の形態を維持するのは難しいなと思った。そもそもエンタテインメントの会社が上場する意味はあるのだろうかと考えた。大きなプロジェクトを始めるときに工場を造ることもないし、上場によってブランドが成立しているわけでもない。新入社員だって、上場企業というよりも「あの吉本」ということで入ってくる。
非上場化の直接の引き金は07年ごろからの一連の混乱(創業家と経営陣との確執報道や、芸人の中田カウスが襲撃され、吉本興業幹部が脅迫された事件など)もある。当時は、会社が外からだけでなく内部から崩壊するリスクもあった。社内の混乱をどうするかが喫緊のテーマだったので、それを解決するために非上場化したという部分もある。
家族的な信頼関係が社風やパワーの源
──吉本興業は儲け主義だとか、タレント数を背景に覇権を握っているという声もあります。
利益率でいうと、ほかと比べて低いと思う。儲け主義がいいか悪いかという議論はあるが、一般に思われているイメージとはずいぶん違う。タレントや芸人さんとの向き合い方でいうと、それこそ死ぬまで吉本所属という人がほとんどで、50年とかの付き合いになると、わかることもたくさんある。若い人たちは年長の芸人やタレントの処遇、先輩たちの会社との向き合い方を見ている。だからこそ信頼関係を基本にしなければいけない。家族的な信頼関係がベースにあるから、安心感が生まれ、社風やパワーにつながっていると思う。