こう考えると、問題の根源は、中国工業化という世界経済の大きな変化に対して、日本が前向きの積極的な対応ができず、製造業に代わる雇用を国内に創出できなかった点にあることがわかる。
多くの経済論議は、こうした事情を正確に把握しているとは言い難い。経済政策も、問題に適切に対応するものにはなっていない。
たとえば、民主党は、労働者派遣法を改正して、「登録型」や製造業への派遣を原則として禁止する措置をとった。しかし、これによって事態は改善されるだろうか? 全体としての雇用が増えない中で、こうした規制強化を行えば、労働需要は減少し、底辺労働の条件はかえって悪化するだろう。
派遣労働の規制強化は、「派遣切り」を防ぐとされている。しかし、経済危機で減ったのは、パートタイム労働ではない。パートタイム労働者の常用雇用指数は、経済危機前の07年には106・0であったが、経済危機後の09年には、112・0へと、むしろ増加しているのである。製造業のパートタイムについてもそうである。指数は、09年に102・1であり、これは07年の104・9に比べれば減少だが、それ以前に比べれば増加だ(03年に99・9、06年には100・0)。
その半面で、製造業の全労働者の常用雇用指数は、06年の100・4、07年の101・1から09年の99・8に低下している。つまり、減少したのは正規労働者だったと考えられるのである。
非正規労働に対する規制を強めれば、企業は正規労働をさらに切らざるをえない立場に追い込まれるだろう。労働者の立場から何が望ましいか、正しく判断する必要がある。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。
(週刊東洋経済2010年9月11日号 写真:尾形文繁)
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