(第30回)「失われた15年間」の雇用と賃金構造の変化

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世界経済の構造変化に対応できなかった日本

まとめて言えば、次のようになる。全体で見ると、日本の雇用は、95年以降ほとんど一定で増えなかった。そして、製造業は雇用を減少させた。それを引き受けたのがサービス業であり、特にパートタイム労働であった。サービス産業のパートタイム労働は低賃金労働であるため、パートタイム労働の増加はサービス産業の賃金を引き下げた。それによって、経済全体の賃金水準も低下したのである。ただし、この間に製造業の賃金水準は緩やかではあるが、上昇している。

以上で見た雇用・賃金構造変化の背後にあるのは、次のようなことであった。90年代以降、中国工業化の影響が顕著となり、世界経済の中での日本の地位が脅かされるに至った。中国の比重が上昇し、日本の比重が低下したのである。

これによって、日本の製造業の生産は頭打ちとなった。鉱工業生産指数の長期的な推移を各年1月の指数でみると、78年に58・0であったものが、85年には79・3、90年には95・3と、順調に成長を続けた。

しかし、91年に100を超えてからは伸び悩み、92年からは減少に陥る場合も生じるようになった。減少傾向はさらに顕著となり、94年には指数が87・8にまで低下した。つまり、90年代以降の鉱工業生産指数は、増減を繰り返すだけで、長期的に上昇することはなくなったのである。

従来の日本の製造業は、特に大企業において年功序列的な賃金慣行が強かったため、このような生産頭打ちに対して、雇用条件を柔軟に調整して対処することができなかった。賃金を下げることができなかったので、自然減を中心として雇用量を減らすことで対応した。これによってあふれた労働供給が、サービス産業のパートタイム労働となった。そこでの賃金が低水準であるため、全体の賃金が下落したのである。

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