リーマン買収から2年、野村の真の国際化阻むハードル《新しい経営の形》
「買収」といっても、破綻後であり、債権債務を引き継いだわけではない。設備機器やIT・決済子会社の買収で数百億円支払ってはいるが、それ以外の買収価格は実質ゼロ。旧リーマンの人員8150人の継承、と言ったほうが実態に近い。
それにしても、野村にとっては“大事件”だ。旧リーマンはウォール街トップ5に名を連ねた代表的投資銀行。アグレッシブさゆえに、バブルにのめり込み倒産したが、一流を自負するインベストメントバンカーは健在だ。その欧州・アジア部門は、証券引き受けなど投資銀行業務で当時の野村の実力を大きくしのいでいた。そうしたバンカーたちを、国際舞台でさほど実績のない野村が一気に吸収したわけだから、不安が広がるのも無理はなかった。
買収後の最大の経営課題はまさに、旧リーマンとの融合をスムーズに進め、相乗効果を引き出すことにあった。そのために、旧リーマン社員の報酬を一定期間保証するなど譲歩もした。社内会議で外国人が一人でもいれば英語を使う。国内のドアの表示まで英語表記にした。
人事・報酬体系も“リーマン化”が進む。前期から新設されたのが「グローバル(G)型社員」という職種だ。原則的に部門間の異動がなく、実績次第で報酬が大きく変動する外資流の制度。これを、国内営業部門を除く全部門で、選択制で導入した。国内対象者のうち、ホールセール部門(トレーディングや投資銀行業務)を中心に、すでに半数強がG型に移行した。新入社員にも来年入社組から導入し、採用予定者約600人のうち約40人がG型という。
グループの経営体制も変わりつつある。ホールセール部門の現場ヘッドのほとんどは旧リーマンを中心とした外国人に代わった。実力主義を徹底すれば、こうなるのが必然だった。一方で、グループの実質的な最高意思決定機関とされる「経営会議」のメンバーは、11人中10人を野村プロパーで固めている。旧リーマンは、今年4月に起用されたジャスジット・バタール氏のみだ。
そして、取締役会は12人。社内取締役5人に旧リーマン出身者はいない。一方、社外取締役はメーカー経営者3人と弁護士、会計士、そして今年6月に加わったコリン・マーシャル元英国航空CEO、クララ・ファース元ロンドン証券取引所CEOという陣容である。01年以来、社長3代にわたり社外取締役を務めてきた久保利英明弁護士は、「これからは、執行役からの報告だけでなく、世界をにらんだ議論が一段と盛り上がっていくだろう」と話す。