ドイツから見た「フクシマ後の日本」とは? SNSで日本は「多様な公共性」を創造できるか
プレゼンに対して、シェーファー教授は、「これまで見えなかった人々のつながりやネットワーク、人々の態度を可視化する技術がネット。津田さんはそんな特性をよく知っており、アクティビストとしても活用しているのが素晴らしい。その一部をうまく紹介してくれた」と評価した。
「草の根からの挑戦」に評価も
聴衆に、ジャーナリストとしての強い使命感を伝え、衝撃をもたらしたのが岩上安身さんのプレゼンテーションだ。同氏は報道サイトIWJ(Independent Web Journal)の代表でもある。IWJは福島第一原発1号機で水素爆発発生後、2時間足らずのうちに原子炉格納容器の設計者に緊急インタビュー・中継した実績を持つ。大手メディアにはできない小回りのよさと、透明性、即時性が特徴であり、音楽家の坂本龍一さんなど著名人のファンも少なくない。
岩上さんは日本の大手メディアの問題点を指摘。「閉鎖的な記者クラブが一次アクセス権を握っていること」や、「本来伝えるべきものを伝えないことが少なからずあるケースを指摘。こうした大手メディアの状況に対して、IWJでは加工されていない「生の情報」を可視化、「草の根の公共性」「情報の民主化」を実現したいと述べた。
会場からは、IWJに対して「原発の報道では、政府などから規制はなかったのか?」という質問も出た。同報道サイトそのものは「小規模なので、政府にとっては脅威ではなく、存在していないことになっている」としつつ、「東京電力の社員から当方のスタッフに、脅しのようなものがあった。だが、逆に私が東京電力に抗議。その様子を報道した」というエピソードを紹介、会場から評価をする声が上がっていた。
同氏のプレゼンを振り返って、シェーファー教授は次のように話す。「岩上さんの活動は既存の民主主義の中で『デジタル民主主義』の醸成に一役買っている。これは「一過性ではない、対抗的な公共性を構築する」という政治的意味がある。また日本の政治家は、こうしたオルタナティブな動きをきちんと受けとめ、重視したほうがよい」。
日本の「小さな進化」で、欧米も自らを検証
言論の自由の健全性を確保するためには、相互に最低限の敬意が伴わなければならない。ネット炎上や倫理観の欠如した発言、ヘイトスピーチは「敬意」が欠如し、感情が前面に出た発言の総体である。
ジャーナリズムは、権力のチェックや多様な言論などを通して、より多様で民主的な社会をつくる役割がある。だが、今回の会議でも指摘されたことだが、欧米の日本の専門家が指摘するのは「日本は多様性・多元性のある公共性づくりに慣れていない」ということだ。だが、「3.11」がきっかけとなって、デジタル技術を介して人々の関係が少しづつ変化し、動いている。そこに研究者たちの関心が集まったのが今回の会議だ。
民主主義、言論の自由などを含む日本の近代化は、欧米から輸入された。逆に言えば、欧米にとって日本は「近代概念」の鏡でもある。そう考えると、日本社会の変化を研究・整理することで、デジタル技術が伴う今日、世界やドイツにとっても「より健全な民主主義とは何か」を模索する過程のようにも思えた。
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