建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く

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私は、摘発を優先しなければならないほど不正が多いとは思っていない。むしろ、公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。

検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる。毎月勤労統計でも、公表データで整合性のつかない点について厚労省に質問したら、全数調査のところ3分の1に抽出していたと告白した。

3省合体「統計庁」で統計の専門人材育成を

――各省庁の専門人材不足に対しては、統計部署の一元化が必要と言われます。

肥後 私が考えているのは、部分的な一元化だ。総務省統計局と統計行政部署、内閣府のGDPを作る部署、それに経済産業省の統計部署の3つが合体する。名付けるなら「統計庁」だろうか。統計委員会もそこに入る。統計庁は、GDP、産業連関表に加え、国勢調査、経済センサス、消費者物価指数、鉱工業指数など主要統計を作成する。

最大の目的は、統計人材を集め、育てることだ。3〜4の局がある800~900人規模の組織であれば、統計を志す人を採用できる。内部で人事ローテーションができ、さまざまな統計を作るのでノウハウが蓄積する。

他の省庁から統計を集めるわけではない。各省庁の所管業務に密着した統計は、その省庁でなければ作れない。たとえば医療施設についての統計であれば、厚労省しか分類方法などわからない。雇用統計は労働行政と結びついているし、建設関連の統計は、国交省の許認可権や公共工事の発注と関わっている。

ただし、所管官庁では統計の専門人材が不足する。それを統計庁がサポート・監督することで補い、統計全体の質を確保する。統計庁にノウハウが蓄積されれば、他省庁の統計がどのように作られているのかもわかる。

――現実味はあるのでしょうか。

肥後 省庁再編が相当困難な作業であることは承知している。統計庁が誕生したとしても、元の省庁から人員を交互に派遣するのでは形だけになる。

統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ。

黒崎 亜弓 東洋経済 記者

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くろさき あゆみ / Ayumi Kurosaki

特に関心のあるテーマは分配と再分配、貨幣、経済史。趣味は鉄道の旅、本屋や図書館にゆくこと。1978年生まれ。共同通信記者(福岡・佐賀・徳島)、『週刊エコノミスト』編集者、フリーランスを経て2023年に現職。静岡のお茶屋の娘なのに最近はコーヒーばかり。

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