建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く

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肥後雅博(ひご・まさひろ)/東京大学大学院経済学研究科教授。東京大学大学院理学系研究科修士課程修了(地球物理学)、ミシガン大学M.A.(経済学)。1990年日本銀行入行。物価統計課長、調査統計局参事役(統計担当)などを経て、2017年総務省参与・統計委員会担当室次長。2019年日本銀行京都支店長。2020年11月より現職。共著に『統計 危機と改革』(日本経済新聞出版)。(写真:筆者撮影)

――公的統計は回答が義務であることから、未回答者に罰金を科すべきという声もあります。

肥後 法的には正しいかもしれないが、現実的ではない。

――日銀が作成する統計は回答義務がないのに回収率が高い。日銀短観も企業物価指数(確報)も回収率は90%台です。

肥後 それは企業に回答してもらえるまで電話をかけ続けるからだ。短観の締め切り直前は、未回答企業に毎朝かけてお願いする。それが日銀では当たり前で、それを部下に徹底させるのが上司としての私の仕事だった。

金融政策を適切に判断するには、経済情勢を見極めなければならず、そのためには統計がきちんと作成されていなければならない。その認識が総裁から全員に共有されている。

外部の有識者からの厳しい批判に応えた

――日銀の統計には定評がありますね。

肥後 日銀が作成する企業物価指数や企業向けサービス価格指数だって、四半世紀前は問題が多かった。物価下落局面に差し掛かった1990年代、製品の品質向上による実質価格の低下や特売、リベートといった実勢を反映できていなかった。また、価格の捕捉が難しくカバーしていない品目もかなりの数に上っていた。

学者の先生方からは厳しい批判を受けた。物価指数の作成方法について説明したら、「こんな調査をやっているからダメなんだ」と言われ、私は恥ずかしかった。そこから必死に長い時間をかけて直してきた。

――日銀内部からも「政策判断が狂う」と非難されたのではないですか。

肥後 問題があることを逆手にとって「改善が必要だ」と主張し、統計部署の人員と予算をなんとか確保した。それで今がある。

――いっそのこと、日銀が政府の統計作成を請け負えばいいのではと思ったりします。

肥後 日銀に限らず、統計調査を担うリサーチ会社はいくつもあるが、統計作成をフルに民間委託にすれば、いま公的統計に費やしている費用よりもはるかに高くつくだろう。

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