インフレ加速で肉も油も買えない「トルコ」の窮状 急激なリラ安とインフレで生活困窮者が増加
19日の演説でエルドアンは、自らの政策に対し「国を不安定化させ、貧困化させる」と警告したビジネス界のリーダーらを激しく非難し、あらためて金利を引き下げると誓った。
「政府のあら探しをするな」とエルドアンは財界人に向けて言った。「われわれと戦って勝てると思うな」。
暮らし向きは真っ逆さま
ところが翌20日になると、エルドアンは譲歩する様子を見せた。通貨下落によるリラ建て預金の損失補填案を打ち出し、金をリラと交換するための優遇装置を設けると約束したのである。エルドアンは、国民が保有する金には何千億ドルもの価値があると主張している。
ビラルの母のように経済的な混乱を経験してきた多くのトルコ人は、困難な時期に備えて今でも自宅で金を保管している。20日に過去最安値まで下げていたリラは、エルドアンの演説を受けて急反発した。
ビラルによると、トルコの暮らし向きは最近まではかなりよかったという。ビラルは高校を中退したが、結婚してから職にあぶれたことはほとんどない。ローンを組んで3部屋の間取りの集合住宅やクルマを購入することもできた。「2020年までは人生は美しかったと言える」とビラル。「借金はあったけど、返済はできていたから」。
しかし激変する経済は、ここに来てビラルの人生にも打撃を及ぼし始めた。「特にここ7〜8カ月は、経済に疲弊させられていると感じる」とビラルは言う。
ビラルは一家の大黒柱だ。イスタンブール近郊の自動車部品工場でフォークリフトの運転手として働き、最低賃金をわずかに上回る収入を得ている。
セヴィンチは、生後5カ月の赤ん坊の世話をするために家にいる。以前は家計の足しにするために働きに出ることが多かったが、昨年、下の娘が不登校気味になってからは仕事を辞めた。家計をやりくりし、日々の買い物を行うセヴィンチは、ここ3〜4年で物価がどんどんと上がっていったと話す。
新型コロナ禍は何とか乗り切っている。ビラルの給料は一時期、半分になったが、政府が残りの半分を補填した。
生活が危機に陥ったのは、今年に入ってからだ。トルコの通貨リラがドルに対し50%近く下落し、公式のインフレ率が21%に跳ね上がったためだが、エコノミストらが非公式に推計する物価上昇率はそれよりもはるかに高い。