過激?上品?「長崎新幹線」社長とデザイナーが議論 N700Sベースの新型車両が登場、2022秋運行開始

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そのとたん、隣にいた青柳社長が「デザインが過激でないとは思わない」と反論した。「JR九州の水戸岡ワールドはすべてつながっている」。JR九州の車両デザインがどれも過激なのだから、むしろ全体のバランスを考えれば、今回の案も過激というわけだ。「もし真っ黒や真っ赤なデザインを選んだら、むしろそっちのほうがおとなしい」と青柳社長は言い切った。

過激さを物語る例として青柳社長が指摘したのは外装の白だ。「そもそも、こんな真っ白な列車はほかに走っていないでしょ」。

この点は水戸岡氏も同意する。かもめの白い塗装は日塗工規格でいう「N9.4」相当の色が用いられている。一般的な建築物や鉄道車両で「白」を使う場合、汚れを目立ちにくくするため少し灰色が混ざった「N9.0」を使うことが多い。N9.4は純白を意味する「N9.5」の一歩手前の色で、「ちょっと水のしずくが垂れただけでも乾くと跡が目立つくらい白い」(水戸岡氏)。清掃の手間を考えるとN9.4を鉄道車両で使うのは異例だ。

そのN9.4をJR九州では800系の外装にも採用している。800系と同じ白を使っているからといって、過激ではないということには確かにならない。800系が過激なら今回の車両も過激である。かもめのデザインは過激でもあり上品でもあるというのが正解だろう。

フル規格化につながるか?

車両は1月5日から6日にかけて出荷し、海上・陸上輸送を経て大村市内にある車両基地に運び込まれる。ここでで6両編成に組成された後、試運転が行われる。日立は西九州新幹線の開業に向けて残りの製造に入る。

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準備は着々と進んでいるが、残念なこともある。それは現在のルートが短すぎるということだ。現在は博多―武雄温泉間が在来線となっているが、全線が新幹線フル規格で整備されるのが本来の姿だ。

もし全線フル規格が実現すればN700Sの持つ性能を存分に発揮できる。N700Sは短編成化が可能なだけでなく、高速性能にも秀でている。2019年には試験列車が米原―京都間で時速360km運転を実現している。もし山陽新幹線と直通できれば、山陽区間内では営業最高速度である時速300km運転が可能になる。

開業後、実際に西九州新幹線を利用した乗客たちが「もっと快適にできるはず」と声を上げれば、今のところ進展が見られない博多ー武雄温泉間をめぐる議論が本格化するかもしれない。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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