過激?上品?「長崎新幹線」社長とデザイナーが議論 N700Sベースの新型車両が登場、2022秋運行開始
結局、形状の変更など基本設計の変更を伴うことはせず、外観や車内の装飾の変更で対応するという方針が決まった。とはいえ、「がんじがらめの中でも何かを生まないといけない。たとえそれが全体デザインの1%にすぎなくても、その1%をどうするかがデザイナーにとっての大切な仕事だ」(水戸岡氏)。
そして完成したのが今回の車両だ。800系は700系の先頭形状を作り替えることで「顔」を実現したが、今回はN700Sの先頭形状に手を加えることなく、装飾のみでJR東海のN700Sとはまったく違うJR九州らしさを実現した。
車両外観のあちこちに「かもめ」「KAMOME」というロゴが施されている。「かもめ」は青柳社長が揮毫したもので18カ所ある。駅ホームの停車中に見える車両側面の「KAMOME」は88カ所、車両の顔部分の「KAMOME」は10カ所ある。車両のどの場所でも記念写真が撮れるようにという配慮だが、列車の愛称名をこれだけ表記するのは水戸岡デザインの車両くらいだろう。
内装は6両編成のうち3号車のみが公開された。「クラシックであり、モダンであり、和であり、洋である。居心地のいいデザイン」と青柳社長が形容する。水戸岡氏も「上品で大人な感じ。これからの時代の先駆けとなるデザインがちょっと見えるかもしれない」。
座席は800系の座席を再設計した。形状はほぼそのままだが、背もたれの高さがやや低くなったほか、電源コンセントが付いている。残りの車両は報道公開に間に合わなかった。公開日ぎりぎりまで内装に手を施すのはJR九州では当たり前の話だ。
「無難」なデザイン?
かもめが走行するのは武雄温泉―長崎間の66kmのみで、最高時速260kmで走行しても乗車時間はせいぜい20〜30分にすぎない。しかし、そんな短時間であってもぜひ乗ってみたいという魅力がこの列車の至るところに垣間見える。「オンリーワンの車両ができた。もしかしたらナンバーワンになってくれるかもしれない」と水戸岡氏は期待する。
今回お目見えした車両もいつもながら見る人をワクワクさせるデザインだが、水戸岡氏は「プレゼンしたのは真っ黒、真っ赤、そして今回の白赤ツートンカラーという3案。いちばん無難なものが採用された」と話す。
この「無難」という発言が気になった。水戸岡氏はデザインを提案する際、無難なA案、過激なB案といった具合に、複数のデザインを提案する。すると、JR九州は必ず最も過激な案を選ぶという。水戸岡氏に言わせれば「すごいのはデザイナーではなく、JR九州」ということになる。
JR九州が過激な案を選ぶのは理由がある。1987年の国鉄分割民営化でJR九州が発足したが、九州を地盤とする同社は首都圏を基盤とするJR東日本、東海道新幹線を運行するJR東海には経営体力面ではかなわない。全国から観光客を呼び込みたくても投資できる金額には限界がある。「JR九州は目立たなくはいけないので、過激なデザインをしていったという面はある」(水戸岡氏)。しかしJR九州発足から30年以上が経過した。「私も年を取ったし青柳社長も年を取った。だから落ち着いた上品で心地よいデザインに行く過渡期かもしれない」と水戸岡氏が話した。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら