ハイテク思想家が予想する2035年の「新たな世界」 SNSの次に世界を席巻するミラーワールド

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基本的にAIが私の部屋をのぞいている形になり、個々のものを認識し、ブランド名や製品番号まで認識していて、いつそれがこの家にやって来たのか、どのように販売されたのかと、それが何かを実際に知っているのです。現実的にそれは、電池の入ったチップを介して電気的にもの同士がつながるという形ではなく、意味的なつながりなのです。

つまりセマンティックウェブとは、世界が構造化されて意味的につながっていることを指す言葉なのです。私が部屋を横切っていると、「いまは歩く動作が行なわれている」という、ある種の理解がウェブ上に発生するのです。

ARはこうしたセマンティックな世界への道筋を付けてくれるものですが、それを実現するためには安価で優秀なAIがどこにでも存在していることが必要になります。

セマンティックな世界で生活はどう変わるのか

こうした、情報の意味までを扱えるセマンティックウェブの世界になれば、AIがいま目にしているものの材料や人の名前を教えてくれることになります。そうなるとわれわれの生活にとってどんないいことがあるのでしょうか?

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例えば自分の買ったものについて、その生産地などについても知ることができるようになります。飲み水がどこから来たかと気になれば、ボトルを見ただけでわかるようになり、関連情報もわかって自分なりの判断ができるようになります(気にしない人は知る必要がありませんが、私はいつも産地や原料などが気になります)。

スーパーに行って、並べてある野菜を見ただけで「有機栽培・産地はメキシコ」などとわかるということです。もしくはあなたの好物かどうか、グルテンフリーかどうかや、アレルギーに関する情報もAIが教えてくれます。それ以外にも、その野菜を使った面白い料理のレシピ、誰がこれを食べているのか、カロリーはどのくらいか……といったさまざまな情報も示してくれます。

このように、情報には2段階が考えられますね。まずは商品そのものに対する注釈で、もう1つは気づきを与えてくれる情報です。あなたは商品について説明したりタイプしたりする必要はありません。興味を持ったものを見つめるだけで、それがあなたを認識します。あなたはただ、尋ねればいいだけです。まるであなたの後ろに誰かが座っていて、ちょっとささやくだけで質問に答えてくれる感じです。

あなたへのお勧めを教えてくれる、といった形もあるでしょう。書店の棚の前を通ると「この本ですよ」と点滅して教えてくれるような使い方です。

(聞き手:大野和基)

ケヴィン・ケリー 編集者、著述家

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Kevin Kelly

1993年に雑誌『WIRED』を共同で設立、創刊編集長を務める。これまでにスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾスなど、数多くの起業家を取材。現在は、『NYTimes』や『Science』などに寄稿するほか、編集長として毎月50万人のユニークビジターをもつウェブサイトCool Toolsを運営。主な著書に『テクニウム』(服部桂訳、みすず書房)、『〈インターネット〉の次に来るもの』(服部桂訳、NHK出版)など

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