劇団「わらび座」が一般社団法人で再建目指す背景 11月に民事再生手続き、アパマン社長が再生支援

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こうした応援団の多さは、わらび座が単なる一地方劇団の範疇に収まりきらない活動を行ってきたことを物語っている。

リベラル系演劇の流れをくみ、1951年に東京で創設。秋田県にゆかりのあるメンバーがいたことで、1953年に現在の秋田県仙北市に移転した。以降、主に郷土を題材としたミュージカルを上演してきた。1974年に竣工した専用の「わらび劇場」は、全国の有志、数百万人によるカンパが原資。その頃から修学旅行生の受け入れを始める。コロナ禍前は年間で約150校、2万人が訪れていた。

座付きの役者や演出家、脚本家を抱えるほか、かつては宇野重吉や木下順二といった演劇人が支援メンバーだった縁もあって随時、外部の演劇人を招聘している。例えば2021年夏に上演した、「北斎マンガ」の演出と脚本は、NHK朝の連続テレビ小説の脚本も手がけたことがあるマキノノゾミ氏が担当。2019年上演の「いつだって青空」は、井口阿くりをという秋田県出身で「日本女子体育の母」と呼ばれた女性を描いた作品だが、「アナと雪の女王」の作詞でも知られる高橋知伽江氏が、脚本と作詞を担当した。

演劇と地方創生の関係

演劇と地方との相性は悪くない。演劇祭を開催し、城崎温泉など周辺の観光地と一体となった地域おこしに取り組んできた兵庫県豊岡市の中貝宗治前市長は、「地方の観光振興では、音楽や演劇などの芸術的要素があれば観光客の滞在時間が増える。豊岡市でも演劇祭を開催し、付近の観光地と一緒に楽しめるプランを作っていた。コロナ後には地方自治体がそうした形のコーディネーターとなることがますます重要になる」と語る。そして、「わらび座は全国で公演を続け、地域の題材への共感がファンを増やした独自のネットワークがあるので、全国的な支援が得られるのではないか」と、再生できる可能性が高いとみている。

日本の劇団の経営はどこも厳しいとされてきた。欧米では、芸術として浸透し、大手企業のスポンサーや個人の寄付金などがあり、幅広い世代に観劇の習慣があるが、日本ではそうした文化が根付いていない。さらに映画などに比べ入場料金が高く、主要公演が首都圏一極集中でファン層が限られていることも大きい。

そこにコロナ禍があり、公演の機会が失われたことで生活に困った舞台関係者は多い。その中で、経済界の有力者であるファンが再建を請け負い、一般社団法人として幅広く支援を募る仕組みを構築して運営を続けるわらび座の取り組みは、地方振興のためだけでなく、日本の演劇や劇団が生きる道を示す嚆矢にもなりそうだ。

水澤 薫 ノンフィクションライター、元全国紙記者

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みずさわ かおる / Kaoru Mizusawa

ノンフィクションライター、元全国紙記者。

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