岸田首相「政策ブレブレなのに支持率堅調」のなぜ 安全運転の裏に潜む、実はしたたかな戦略

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しかし、ネット上などでは「勝手に外国を飛び回っている日本人の自己責任」との声が噴出し、憲法違反論もすぐ勢いを失った。こちらも、岸田首相の「パンデミックには最悪の事態を想定して対応する」との菅前政権との対照的な姿勢が評価される結果となった。

衆院予算委では維新の委員が「首相は最初の強硬方針を変えないほうがよかった」とまで発言。官邸関係者も「迷走したのに、内閣支持率が上がって驚いた」と苦笑した。もちろん、こうした「ブレブレ」が岸田首相の戦略だったかどうかは不明だが「少なくとも、聞く力を発揮したことが結果的に功を奏した」(側近)ことは間違いない。

岸田首相が誕生してからすでに約2カ月半。その間、「お友達の失業対策」と大炎上した石原伸晃元幹事長の内閣官房参与への起用と、8日目の辞職。さらに、国交省の基幹統計書き換問題など「支持率下落の要因は枚挙に暇がない」のが実態だ。にもかかわらず、岸田首相は「朗らかで政権運営への自信と余裕をにじませている」(閣僚経験者)とされる。

「アベスガ政権」と対極の手法が奏功

9年近くも続いた「アベスガ政権」で、安倍氏は予算委論戦で、野党の激しい追及にしばしば自席からヤジを飛ばし、「悪夢の民主党政権」などと敵意をむき出しにした。また、菅氏は官僚の用意した答弁メモを読み続け、「壊れたテープレコーダー」と批判され続けた。 

岸田首相は「その対極の手法」(側近)で攻撃をかわしているのが特徴だ。それが「聞く耳を持たなかった前・元首相と、聞く耳を持つ岸田首相」(維新幹部)の対比を際立たせ、堅調な支持率につながっているのが実態だ。

まさに「安全運転の裏に潜むしたたかな岸田戦略」(自民長老)ともみえ、辛口の有力コメンテーターも「共感力のアピールなど、現在の国民感情との相性がいい」と舌を巻く。ただ、自民党内には「敵もいないが本当の味方もいない」(安倍派幹部)との指摘もある。

年末に向け、コロナの新規感染者数が全国的にジワリと増え始めたこともあり、「臨時国会は無風で乗り切れても、年明けの通常国会でも同じ手法が通じるという保証はない」(同)との声も少なくない。来夏の参院選に向け、年明けからが岸田首相の正念場となりそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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