「最初は下手なほうがいい」道を究める人の共通点 将来大成したい人へ「徒然草」が語ること

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日本古典文学の名著のひとつ、『徒然草』。芸事を身に付けるには、案外、コツをつかむ才能に恵まれていないほうが、うまくいくこともあるようで……? (写真: amadank/PIXTA)
兼好法師の『徒然草』は日本古典文学の名著のひとつ。人生訓として読まれることも多いが、全段を通して読んでみれば、単なる人生訓では収まらない幅の広さや、まるで今の世を見ているかのような指摘にも驚く。
作家で国文学者の林望さんが全243段の新訳を『謹訳 徒然草』と題して出版した。その中から3つの段を全文公開。1回目は【第150段】。芸事を身に付けるには、何を大事にしたらいいのか。案外、コツをつかむ才能に恵まれていないほうが、うまくいくこともあるようで……。

【第百五十段】なにか芸能を身に付けようとする人は 

なにか芸能を身に付けようとする人は、とかく「あまり上手にできないうちは、生半可にこれを人に知られぬようにしよう。ごく内密によくよく習得してのちに、ずいっと人前に出て披露したならば、さぞ心憎い致し方であろう」などということをつねに言うようであるが、そんなことを言っている人は、一芸といえどもちゃんと習い得ることがない。

『謹訳 徒然草』(祥伝社)。書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします

いまだまるっきりの下手くそのうちから、上手な人のなかに交じって、バカにされ嘲笑されるのにも恥じることなく、平然として長く稽古に精を出す人は、仮にその人が生まれついてのコツをつかむ才覚に恵まれていなくとも、それぞれの道に停滞することなく、また自己流に堕ちることなく、年功を積む結果、なまじ才覚があるがために地道な努力を怠っている人よりも進歩を遂げて、最終的には名人上手というべき芸位に至り、人徳も具り、また世人からもそのように認められて、やがては天下無双の名声を得るということになる。

天下に聞こえた芸道の上手の人であっても、その始めは、とんと下手くそという評判があったりもし、またひどい欠点があったりもしたものだ。それでも、その人が、斯道の掟をきちんと守り、これを重んじて自己流のやりかたに堕することをしなければ、ついには世の中のお手本ともなり、万人の師範ともなること、これはどんな物習いの道でも変わることがない。

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