アップルウォッチが持つ意外と深い広がりの意味 目論むのは生活サービス全体のエコシステム覇権
これまで、iPhoneなどのデバイスを起点に、生活サービス全体のエコシステムを形成してきたアップル。拙著『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』でも関連して解説していますが、そのエコシステムへ次に取り込もうとしているのが、ヘルスケアです。
なぜアップルは、ヘルスケア事業に進出するのか。その理由の1つを端的に示す言葉を、同社のティム・クックCEOは口にしています。次は、経済ニュース専門放送局CNBCのインタビューに答えたものです。
「ヘルスケアこそ最大の貢献」ティム・クックの言葉
「もし将来、過去を振り返った際に、アップルが人類のために果たした最大の貢献は何だったかと問われたら、それはきっと健康に関したこと、と答えるだろう。私たちは、ヘルスというものを民主化していく。関係機関とともに、私たちは1人ひとりの健康を維持することに必要なことは何かを考えていく」
iPhoneで知られるアップルが、「ヘルスケアこそ最大の貢献」とまで強調していることを、不思議に思う方も少なからずいることでしょう。しかし、次に紹介するエピソードを知れば印象が変わるかもしれません。アップルOBでもある竹内一正氏の著書『アップル さらなる成長と死角』から、アップル創業者であるスティーブ・ジョブズ氏の晩年に関する記述を抜粋します。
「アップルウォッチはどうやって誕生したのだろうか。ひとつにはジョブズの病気があった。2003年にジョブズはすい臓がんに侵されていることがわかり、翌年、摘出手術を受けた。だが、ジョブズとがんとの闘いはその後も続いた。
入院してさまざまな検査を受けていたジョブズが失望したことのひとつに、病院内のヘルスケアのシステムが共有化されずにバラバラだったことがある。がんの専門医やすい臓の専門医、痛みを和らげる専門家に栄養士、血液の専門医など、専門別のスペシャリストが入れ代わり立ち代わりジョブズを診断して、検査結果を見てそれぞれで対応していた。こんなバラバラなやり方なんて、ジョブズが君臨するアップルでは考えられないことだった。
患者の健康データが、患者と医者など医療提供者との間できちんと連携されることが重要だとジョブズが痛感したのは当然だったろう。そしてこれは、患者という立場での『ユーザー体験』と言い換えてもいい。
ユーザーの立場で開発中の製品を使い、問題点を1つひとつ指摘し、技術者たちに解決させていく――”プロダクトピッカー”としてジョブズは有名だった。マッキントッシュもiPodもiPhoneもそうやって作られてきた。がんで入院してもその感覚は生きていたのかもしれない」(『アップル さらなる成長と死角』竹内一正著、ダイヤモンド社)
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