社長失踪で突如「全店閉店」人気パン屋倒産の顛末 神奈川地盤「ベルベ」積極出店の裏で自転車操業

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11月15日、事後処理を一任された弁護士から債権者宛てに届いた書面は、関係者に大きな衝撃を与えた。その書面には、ベルベは「現段階では約52億円の負債」を抱えているというのだ。直前まで「優良企業」だったはずの会社が突然倒産したうえ、関係先に提出していた決算書の負債額(2020年6月末時点で約10億円)とはあまりにかけ離れていたからだ。

明らかになっている直近の決算から1年以上のタイムラグがあるとは言え、同社の規模で1年間に40億円もの借金をすることは考えにくく、しようものならより早い段階で信用不安が取り沙汰されていただろう。

実際、代理人弁護士に取材したところ、「倒産発表後、融資元として把握していなかった金融機関から借入金の返済について問い合わせがあり、当初把握していた負債総額よりも膨らんでいる」という。つまり、決算書に計上されていない借金を抱えていたものとみられる。詳細は弁護士による債権・債務の調査結果を待つほかないが、「関係先ごとに複数の決算書を提出していたようだ。問題のある融資先との認識もなく見破れなかった」(取引金融機関)。

そして、倒産後の追加取材で明らかになったことだが、今年の春先から夏頃にかけて、店舗の賃料など取引先に対する支払いぶりが一部で悪化していた。こうした予兆を察知してか、5月時点で融資金の回収にいち早く動いた取引銀行もあったようだ。

借金の「使途」解明が急務

ベーカリーチェーンの倒産としては過去最大となる50億円超に膨らんだ負債額についても、疑問の声が上がっている。負債の大半は金融機関からの借入金と見られ、店舗のスクラップアンドビルドを繰り返すなかで債務が増加した可能性が高い。とはいえ、「金額が大きすぎる。借入金の使途について今後詳しい調査が必要だろう」(取引先)。

経営面全般を掌握していた社長が不在の今、真相はやぶの中だが、「身の丈を超えた出店戦略」が災いしたといえる。最後は、新型コロナウイルスの感染拡大と原材料高という「外部環境の急変」がとどめを刺した。多くのファンに愛された“優良ベーカリーチェーン”は、こうして事業継続の道を絶たれた。

内藤 修 帝国データバンク 横浜支店情報部長

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ないとう おさむ / Osamu Naito

1977年、横浜市生まれ。2000年に同社入社。本社情報部、産業調査部、東京支社情報部を経て、2018年10月から現職。入社以来18年以上にわたって、企業取材、景気動向のマクロ分析とともに、注目業界の動向やトピックをまとめた『特別企画レポート』の作成を手がける。専門は、倒産動向分析、企業再生研究。

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