健康診断の「基準値ありき」にモノ申す

学会間の論争は、本質が抜け落ちていないか

ところが、日本脂質栄養学会はそうした説を全面的に否定。いくつかの疫学調査から、「特に40歳以上は総コレステロール値が高いほうががん死亡率、総死亡率が低く、低下医療は勧められない」という結論を導き出したという。

これに対し、日本動脈硬化学会は反論の声明を発表。「根拠としている論文が研究者の精査を経ておらず、科学性が担保されていない」「科学的根拠がなく、必要な患者の治療を否定するもので容認できない」とした。

続いて、日本医師会の原中勝征会長(当時)と日本医学会の高久史麿会長も記者会見を開き、日本動脈硬化学会の見解を支持する形で「このガイドラインは問題も多い」(原中会長)、「今回のガイドラインは明らかに間違いであると指摘したい」(高久会長)などと否定した。

日本脂質栄養学会の調査結果に弱みがあったのは確かのようだ。同学会が解析した論文は査読(専門家による査定。一流学術誌に掲載される論文は必ず査読の手続きがとられる)のされていないものが中心でエビデンスレベルは低かった。

また、観察研究で「コレステロール値が低い人の死亡率が高い」ことが見えても、介入試験によって「コレステロール値を上昇させた患者の死亡率が低下する」ことを立証しなければ論拠は成り立たない。こうした指摘に日本脂質栄養学会は再び反論を出したが、その時点ではもはやそれを報道するメディアも少なくなっていた。

その後「低コレステロールほど高死亡率」説に追い風 

日本脂質栄養学会は会員数400人にも満たない小さな学会で、栄養学、薬学、疫学の研究者が多く所属している。2000人を超える医師を擁する日本動脈硬化学会とは規模が違う。「異端の集まり」と見られながら、論争は沈静化していった。

その後の2011年、より信頼性の高い研究方法で低コレステロール値と高死亡率の関係性を示唆するような論文が、別のグループにより発表された。名郷直樹氏ら自治医科大学グループは、国内12の農山村地域における40~69歳の住民健診受診者1万2334人を対象としたコホート研究(特定の集団を長期的に追跡する調査手法)を実施。1992年から平均11.9年間の追跡調査を行った。

それによると、高コレステロールと死亡の関連が認められなかった一方で、低コレステロールは死亡と関連していたという。特に女性では、総コレステロール200~240mg/dlの集団と240mg/dl以上の集団は、160~200mg/dlの集団より死亡リスクが低いという結果が出た。だが、この論文は一部の医療関係者の間で注目されていただけで、マスメディアをにぎわせることはなかったようだ。

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