健康診断の「基準値ありき」にモノ申す 学会間の論争は、本質が抜け落ちていないか

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

日本脂質栄養学会が主張すべきだったのは

日本脂質栄養学会は、「長寿のためのコレステロールガイドライン」の中で、薬物治療についても「不適切である」と主張していた。コレステロール値低下治療に最も多く使われているスタチンは、2011年に後発品が登場するまで世界の売上高ランキングのトップの座にあった大型医薬品だ。日本動脈硬化学界の編集委員に、製薬会社から億単位の寄付金があったことも指摘している。

実際の臨床現場には、コレステロール値の検査結果だけを見て即座に「コレステロール値が高いですね。薬を出しましょう」という医師が少なからずいる。日本動脈学会のガイドラインは、性別や年齢、血圧、血糖値など厳密な分類がされていない。

だが、女性は閉経後からコレステロール値が急上昇し始めるが、心筋梗塞や脳梗塞の発症率は男性より低い。また、75歳以上の後期高齢者で肉や魚を積極的に食べる元気な人は、コレステロール値が高い傾向がある。現在、薬物治療をしている患者の中には、その必要性が低いと思われる人がいることも考えられる。

基準値ありきで画一的な薬物治療をあらため、誰もが個人の状況にあった診断、治療を受けられる医療が求められているのに、必ずしもそうなってはいない現状があるのは確かだ。日本脂質栄養学会が、日本動脈硬化学会という大集団に真っ向から論争を挑む形でガイドラインを発表したことは世間の注目を大きく集めたが、それによって本質的な部分が見過ごされてしまった可能性は大きい。

今年、日本人間ドック学会が発表した「基準範囲」はそもそも、専門学会がガイドラインで示すような臨床判断値とは性質が異なるものだった。それがニュース性をあおるような発表の仕方や短絡的な報道によって、「どちらの基準が正しいのか」といった不毛な議論が生じた一面もある。「基準値」をめぐる論争は、本来あるべき医療の姿を問うような、前向きな議論がなされるべきなのかもしれない。

週刊東洋経済2014年9月13日号(9月8日発売)の特集は「クスリの裏側」です。
普段何げなく服用している薬は本当に必要なのでしょうか。安全なのでしょうか。相次ぐ不祥事で製薬業界の信頼が揺らぐ中、身に付けておきたい本当に必要な知識をお届けします。⇒詳しい目次・購入はこちらから

 

堀越 千代 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ほりこし ちよ / Chiyo Horikoshi

1976年生まれ。2006年に東洋経済新報社入社。08年より『週刊東洋経済』編集部で、流通、医療・介護、自己啓発など幅広い分野の特集を担当してきた。14年10月より新事業開発の専任となり、16年7月に新媒体『ハレタル』をオープン。Webサイト、イベント、コンセプトマガジンを通して、子育て中の女性に向けた情報を発信している

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事