日本初?「漫才授業」で学校を沸かす芸人の正体 「アンダーエイジ」が岩手に移住した深いワケ

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そして実はこの間、2人は「住みます芸人ならでは」ともいえる、新たな“仕事”にも恵まれていた。

「岩手に戻った翌年(2012年)、東京にいた時に仲が良かった芸人仲間から『俺の従兄弟が(盛岡市内の)中学校で先生やってるんだけど、国語の授業と漫才でなんかコラボできないか』って紹介されて、その先生とお会いしたらすっかり意気投合して。国語の時間に『漫才授業』やりましょうという話になったんです。

試しに、当時、その先生がいた(盛岡市立)見前南中学校で、2年生の国語の時間に『漫才授業』をやってみたら、これが意外と評判が良くてですね(笑)、翌年から授業のカリキュラムに入れてくださったんです」(熊谷)

かつての教え子から「先生!」と声をかけられることも

このアンダーエイジによる「漫才授業」は評判を呼び、同じ盛岡市立の仙北中学校や土淵中学校だけでなく、花巻市の湯本中学校や、一関市の県立一関第一高校附属中学校など、授業に取り入れる学校が年を追うごとに、増えていったという。

「一関(一高)附属中では、文化祭で、漫才授業の『決勝大会』をやって、僕らが審査員を務めるという大きなイベントにまでしてくれました。

実際の授業は毎年、12月から冬休みをはさんで、翌年2月までの約3カ月間に計5時間。最初はネタ作りから始まって、ネタ見せ、最後はクラス代表決定戦から学年チャンピオン決定戦までやるんです。が、嬉しいのが、わずか3カ月の間でも、子どもたちの変化や成長が見られることなんです。

それまでクラスで目立たなかった子が、これを機に人気者になるとか。最初は引っ込み思案だった子が、最後には堂々とクラスのみんなの前に立って、大きな笑いをかっさらっていくとか……。そういう姿を見ていると正直、うるっときますよ(笑)」(結城)

アンダーエイジから最初に「漫才授業」を受けた中学2年生も今や22歳。ライブや営業の際にお客さんとして再会し、客席から「先生!」と声をかけられることもあるという。

そして現在、アンダーエイジは、かつて、「あると思います」が決め台詞の「エロ詩吟」で人気を博し、今年3月に岩手に移住した「天津木村」がMCを務める岩手朝日テレビの新番組『Go! Go! いわて』(4月放送開始。毎週土曜朝)にレギュラー出演するなど、再びローカルタレントとして活躍している。

最初に2人をレギュラー番組に起用した高橋はインタビューの最後にこう語っていた。

「彼らもよく10年も(住みます芸人が)続いたと思います。最初、めんこいテレビのスタッフの前でネタやった時はキンキンにスベってましたから(笑)。彼ら自身が成長したことはもちろんですが、岩手の人は優しいんですよ。自分の子や孫の成長を見守っているような感じで。

ただ、願わくば、(住みます芸人になった)当初の志を失わず、岩手を拠点に、全国で知られるような芸人になってほしい。それが彼らをここまで育ててくれた岩手の人たちの恩返しになると思います」

(文中敬称略)

西岡 研介 ノンフィクションライター

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にしおか けんすけ / Kensuke Nishioka

1967年、大阪市生まれ。1990年に同志社大学法学部を卒業。1991年に神戸新聞社へ入社。社会部記者として、阪神・淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などを取材。 1998年に『噂の眞相』編集部に移籍。則定衛東京高等検察庁検事長のスキャンダル、森喜朗内閣総理大臣(当時)の買春検挙歴報道などをスクープ。2年連続で編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞を受賞した。その後、『週刊文春』『週刊現代』記者を経て現在はフリーランスの取材記者。『週刊現代』時代の連載に加筆した著書『マングローブ――テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(講談社)で、2008年、第30回講談社ノンフィクション賞を受賞。ほかの著書に『スキャンダルを追え!――「噂の眞相」トップ屋稼業』(講談社、2001年)、『襲撃――中田カウスの1000日戦争』(朝日新聞出版、2009年)、『ふたつの震災――[1・17]の神戸から[3・11]の東北へ』(松本創との共著、講談社、2012年)、『百田尚樹「殉愛」の真実』(共著、宝島社、2015年)などがある。

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