――労働法規以外にも問題は多いですね。
個人請負は年金や健康保険も全額自己負担で、国民健康保険、国民年金に加入することになる。会社側負担分がある労働者に比べて、負担が重い。また貨物運送や食品衛生などの各業法的な規制についても、誰が公的な責任を負うのかがあいまいにされている。
そんな個人請負が労働強化にまで直面しているというのは、相当危機的な状況だと思っている。こうした働き方が出始めたときから、上記のような問題が生じることはわかっていたはずなのに、厚生労働省も経済産業省もきちんとした手立てを取ろうとしなかった。また裁判所に救済を求める動きも進んでいない。
「労働基準法上の労働者性」のハードルが高い
――日本ではまだプラットフォーマーを相手にした訴訟は多くないですね。なぜなのでしょうか。
日本では残業代や労災補償、失業給付などの対象となる「労働基準法上の労働者性」が裁判所で認められるためのハードルが高い。
自車を持ち込む形のトラック運転手の労働者性をめぐって、最高裁判所は運転手がその会社の運送業務に専属的にかかわり、運送係の指示を拒否する自由はなく、毎日の始業終業時間も事実上決められていたケースでも、労基法上の労働者性を否定した(横浜南労基署長事件、1996年11月判決)。
この最高裁判決に沿えば、始業・終業時間は自由で、サービス提供の拒否も可能なプラットフォーム型ビジネスの個人請負が労基法上の労働者性を認められるためのハードルはかなり高い。弁護士側にも容易ではないという認識が広がっているのは事実だ。
ただ、日本とは異なり諸外国では個人請負の救済に向けた議論や動きが急速に進んでいる。こうした海外からの波が、遅からず日本にも来るとみている。
――個人請負をめぐり、他の先進諸国ではどういった流れになっているのでしょうか。
まずわかりやすいのはフランスで、日本の最高裁に当たる破棄院はここ数年、従来の方針を転換して「ウーバーイーツ」のような料理配達人やウーバータクシーの運転手の労働者性を認めるようになった。GPSによる監視と指揮命令、アクセス停止などの制裁、報酬の一方的決定などが考慮されたとみられている。同時に立法的救済にも着手している。
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