口コミは利用者によって5点満点で評価されるもので、高い点数の口コミが増えると、プラットフォーム上でのランキングも上がる仕組みだ。ランキングが上がるとそれを参考にした新規の顧客がつくため、仕事を受け続けるにはこれの上昇が欠かせない。
「ちょっと頑張れば、仕事を始めたばかりの自分でもランキングがどんどん上がる。自分がやり手の職人のように思えてきて、ゲームのようにのめり込んで行きました」
プラットフォーム会社の「コンサルタント」と呼ばれる担当者からも、「どんどん売り上げを伸ばしていきましょう」とアドバイスを受けて、さらに多量の引っ越し業務をこなすために新車のトラックを購入し、貸倉庫の契約も行った。
一方、そこで最も避けなければならないのが、利用者から低評価を付けられることだ。引っ越し作業では、実際現場で追加の仕事が生じることも多いが、低評価を恐れて料金の上乗せを躊躇する業者がほとんどだという。
「本来、顧客と業者は対等だと思っていますが、実際にこうした仕組みでは顧客からの理不尽な値下げ要求などでも飲み込まざるをえませんでした。ランキングには口コミだけでなく、このプラットフォームでの稼働実績も求められるので、条件の悪い仕事でも引き受けていました」
そうした疑問を感じながらも、男性は1年近く、ほぼこのプラットフォーム専業で働き、月の手取りで平均30万円ほど稼いでいた。そんな中、やはりこれはおかしいと感じる出来事があった。
「同業者の中高年の夫婦から、5階建てのマンションの引っ越し作業で2人がかりで一日かかったのに、手取りは1.5万円と聞いて驚きました。彼らは『それでもコンビニで働くよりはもらえるから』と言ってましたが、さすがにこんな低料金が横行してはまずいだろうと」
一方的に掲載を停止された
意を決した男性は2020年5月、ツイッター上にプラットフォームの実名を出し、こんな投稿を行った。
「当方は、毎月10万円~20万円の『みかじめ料』を払っています。いい面もありますが、事実上の下請け業者になっている側面もあり、この点は強く問題視しています。仲介屋さんに依存せず、自力でお仕事を取っている同業者のみなさんを尊敬します」
投稿のすぐ翌日に、プラットフォーム会社の従業員から、「そういう投稿をされるととても悲しい」と電話で告げられ、ツイートの削除を要求された。男性はそれを受け入れ、関連投稿も含めすべて削除した。
ところがその数日後、プラットフォーム会社から男性に、「出店の継続について審議するべく掲載停止にする」とのメールが届き、一方的に男性の個別ページの掲載が停止された。
その後、審議の結果はいつわかるのかなど、何度も連絡を取ろうとしたが、プラットフォーム会社からの返信はいっさいなかった。
「停止されて収入が途絶えたのは、ちょうど新型コロナウイルス蔓延の第一波の時で、血も涙もないと痛感しました。職人の世界では、たとえ元請け、下請けの関係であっても両者には一定の緊張関係があります。でもこうしたプラットフォーム会社には、自らが一方的に支配できる上下の関係しかありえないのでしょう」
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