日本の「経済安全保障」絶対押さえておきたい論点 国家安全保障戦略と目的は同じでも手段は異なる

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自民党の提言ではエネルギー、情報通信、交通・運輸、医療、金融の五つの分野が「戦略産業基盤」として提示されているが、エネルギー1つとっても、原子力から再生可能エネルギーまで多様であり、その中の優先順位付けをどうするのかという問題は残る。また、そうした脆弱性を低減するためにいかに同盟国、友好国を活用し、信頼に基づくサプライチェーンを確立するのかが重要となるだろう。

司令塔の役割は産業界との対話

岸田政権では小林経済安全保障担当大臣が任命され、経済安全保障戦略の司令塔として機能することは期待されている。その役割として重要になるのは、産業界との対話である。「戦略的自律性」の確保は、補助金や規制を通じて戦略基盤産業の維持・強化が図られることになるだろうが、それは逆に言うと、これまで廉価で調達できていたものを、政府の規制や権限で国内での調達に切り替えるように誘導することを意味する。結果として産業競争力の低下をもたらす可能性もある。経済安全保障は民間企業を巻き込み、その活動を振興しつつ管理し、官民が協力して達成しなければならないものである。

ルールに基づく国際秩序に矛盾しないか

経済安全保障は、これまで自由貿易原則に基づいて世界的に拡大した生産ネットワークやサプライチェーンが広がり、その結果、戦略的に脅威となりうる国を含むようになったことで、そうしたサプライチェーンへの依存を低減することを目指すものである。

これは言い換えれば、戦略的自律性のためには自由貿易原則に反する措置が取られうる可能性を示唆するものである。現在のWTOのルールの中ではGATT21条にみられる「安全保障例外」があり、日中韓が参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)にも、日本が主導した環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)にも「安全保障例外」は設定されている。

しかし、GATT21条の「安全保障例外」は極めて解釈の幅が狭い設定となっており、「経済安全保障」がそれに含まれるとはいいがたい。RCEPやCPTPPの例外はやや解釈の幅が広くとられているが、戦略的自律性を目指すための補助金や他国企業の参入の排除を無制限にできるというわけではない。

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