日本の「経済安全保障」絶対押さえておきたい論点 国家安全保障戦略と目的は同じでも手段は異なる

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また、その方針を実現していくため、「戦略基盤産業」の脆弱性を把握・分析し、必要な措置をとって戦略的自律性を確保し、戦略的不可欠性を強化するとしている。また、この「戦略基盤産業」には、エネルギー、情報通信、交通・運輸、医療、金融の5つの分野が設定され、それぞれのリスク分析と脆弱性対策が論じられている。

これらの議論は極めて有用であり、精緻に練られたものである。しかし、ここでの議論は日本の独立と生存および繁栄を脅かす状態が起こった場合に対する備えに集中しており、そうした状態を未然に防ぐための措置としては「戦略的不可欠性の維持・強化・獲得」という手段が示されているだけである。言い換えれば、この「戦略的不可欠性」が抑止力となって他国が日本に対して脅威を与えない、ということが意図されている。

しかし、その「戦略的不可欠性」が抑止力として十分に機能するのかどうか、ある特定の産品(例えば原油)を生産する国が、日本の技術に依存していない場合、果たして戦略的不可欠性を持つだけで脅威を減らすことはできるのであろうか。さらに「国家安全保障」の脅威である国、例えば北朝鮮に対して、これまで段階的に制裁を科し、全面制裁に至ったが、北朝鮮は非核化どころかミサイル開発も止めることなく続けている。経済安全保障の問題は国家安全保障戦略の中に組み込まれてこそ意味があるが、その両者の連携に関してはさらに議論が深められるべきである。

「戦略的自律性」はどこまでコストをかけるのか

「戦略基盤産業」に脆弱性を抱えることは、他国の意図的な攻撃の対象となるだけでなく、自然災害やグローバル市場における需給バランスの変化などによっても多大な影響を受けることになるだろう。そのため、脆弱性を低減し、可能な限り他国に依存することなく、自律性を高めることは有効な解決手段である。

しかし、あらゆる産業分野でそれを行うことは不可能である。どこまでのコストをかけて、どの分野の脆弱性を低減させるのか、どの分野ではどの程度のリスクを取ることができるのか、といったことが精査されなければならないであろう。

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