儲かるのは経営者?「保育士賃上げ」仕組みに課題 岸田首相が意欲をみせるが本当に上がるのか
「弾力的」とは簡単に言えば、経営者は受け取った委託費について、従来の「人件費は8割」という枠組みを気にせず、自由に使ってよくなったということ。保育の質や保育士の生活よりも金儲けを第一に考える経営者がいた場合、給与に回らないという事態が起きうる仕組みになったのだ。
岸田首相が保育士、介護士らの賃上げで掲げているのは、この委託費の根拠となる「公的価格」(保育の公定価格)の引き上げだ。三浦氏は「公定価格の引き上げ自体は評価しますが、それだけでは意味がありません」として、実態を解説する。
「弾力的運用が許されているのをいいことに、委託費の2~3割しか人件費に使っていない経営者が数多くいます。人件費を削って経営側の利益にしたり、事業拡大にお金を回したり、株式会社では、株の配当に使うことまで許されているのです。現場は低い給与で人員も削られ、ギリギリの状況で働いているのにもかかわらず、です」
同ユニオンが保育士の相談を受けて経営者側と団体交渉を行い、人員と給与が増えたケースは少なくない。処遇改善等加算も同様で、前出の「4万円増額のはずが2万円」だった女性保育士は、日ごろから経営者側に労働環境の改善を訴えていたため、経営者に嫌われて不当に低い金額にさせられたという背景があったという。
「保育士が、経営者側への従属を強いられるシステムになっているのです」(三浦氏)
もちろん、まじめに経営している保育所も多い。だが、自分の生活で精いっぱいだったり、将来の展望を抱けず辞めていく保育士も多い中、高級外車に乗りブランド品で身を固めた経営者がいるのもまた事実だという。
こうした実態を受け、三浦氏は、以下のように提言する。
「▽委託金の使途に規制を作る▽現場の保育士の人員を増やす▽公定価格を引き上げる、この3つを合わせた改善を強く訴えることです。3つをセットにしなければ、今まで同様、経営者の利益を増やすだけに終わることは容易に想像できます」
休業補償を支払われなかったケースも
残業代の未払い、休憩なしでの労働など、「ブラック」な環境の問題点がたびたび報じられてきた保育の世界。昨夏には、コロナ禍で休業した保育園が、委託費が今までどおり支払われているのにもかかわらず、従業員に正当な休業補償を支払わないケースが明るみに出た。
都内の保育所で働く30代の男性保育士は、こう本音を漏らす。
「保育や介護は、本来は国が責任を持って福祉施策として手厚くやらないといけないことなのに、民間に投げている感じがします。その民間業者は利益第一ですから、甘いルールのままで投げ続けても、現場の人たちの生活は大きくは変わらないと思います。保育士や介護士、看護師の数をしっかり確保したいのなら、経営者の顔色ばかりを見ず、ちゃんと意味のある形にしてほしい」
実態を見たうえでの政策を打てるか、効果の薄いばらまきで終わるのか。岸田首相の本気度が問われる。
(AERA dot.編集部・國府田英之)
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