システム障害はごく一端「みずほ」深刻危機の本質 営業現場は人員削減の草刈り場?怒る行員たち

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時価総額はときどきの株価水準が変動係数となる。したがって、時価総額も刻々と変わるし、「グローバルトップ5」も相対評価の変数にすぎない。自身の成長がなくても、ライバルたちの株価が大幅に下がれば、相対優位となってランキングは上昇する。

したがって、ある時点に区切って時価総額だけで評価することに意味はないが、それでも、傾向的には説得力が生ずる。

いま、みずほグループは時価総額でどのようなポジションにあるのか。世界の金融業の時価総額ランキングをみると、数十位にとどまっている。みずほグループに限らず、わが国の3メガバンクグループは時価総額ランキングでトップ5どころか、トップ10にもランクインしていないが、みずほグループの順位はそのなかでも低い。

一方、総合商社は復活を遂げて市場評価を高めている。そこには、分散型の経営モデルでアジャイルにビジネスモデルを変容させていく柔軟性があったからにちがいない。ところが、総合商社のトップは銀行は「重たいシステム構造」と指摘する。

この指摘は、システムそのものを語っているのではない。分散型で柔軟性に富んだ組織を構築できない銀行の体質をとらえた発言にほかならない。

One MIZUHO=集中管理型の官僚ヒエラルキー?

くしくも、みずほグループは自らを「One MIZUHO」という標語で強調している。これはかつて、母体の3銀行の間で生じた深くて暗い溝を埋めていく願望が込められていた。ところが、いま、「One MIZUHO」という言葉は持株会社の経営レベルを頂点とする、集中管理型の官僚ヒエラルキーの代名詞のように響いて聞こえてくる。

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結局、金融庁がシステム管理をグリップすることになる。これはシステム運営などのリスクであるオペレーショナルリスク上の問題を金融庁が懸念した結果であると言える。しかし、システム問題は表面に現れた現象であり、みずほ問題の深層は組織のあり方にある。システム問題はそれが生み出した一端にすぎない。

はたして、みずほグループは、ビジネスモデルの変革を迫られているこの時代のなかで、迅速にそれを実現していけるのか。

いま、その桎梏(しっこく)となっているのはシステム問題ではない。経営のあり方そのものである。

社会の変化はいよいよ加速してきている。みずほグループには硬直的経営を廃して、アジャイルな組織に変わる破壊的な創造こそが必要となっている。ある一定の範囲において、危機は再生のチャンスである。みずほは挑戦しなければいけない。

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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