システム障害はごく一端「みずほ」深刻危機の本質 営業現場は人員削減の草刈り場?怒る行員たち

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カンパニー制は投資銀行を中核とする巨大金融会社であるアメリカのJPモルガンのマネジメント手法であり、それをみずほは模倣したことになる。

しかし、同じ金融グループでも、みずほとJPモルガンは似て非なる存在だ。したがって、当初より、みずほがカンパニー制を導入することに一種の危うさを指摘する向きは少なくなかった。

余談だが、JPモルガンは1980年代に深刻な低迷状態に陥ったことがある。その際、経営立て直しに向けて、新たなトップに就任し、立て直しを見事に成功させたのがデニス・ウェーザーストーン氏である。

彼はロンドンの労働者階級の家に生まれて、大学に進学できず高校卒業でJPモルガンの英国拠点に入社した。初めの仕事はメッセンジャーボーイだったと言う。それから数多くの現場で働いて、経営悪化という非常時にトップに抜擢された。

その成功の秘訣は、同氏が「すべての仕事に精通していたことにあり、現場の人たちが彼を知っていたことにある」と言われている。みずほの経営者がJPモルガンから学ばなくてはいけなかったのは、カンパニー制よりも、むしろ、このウェザーストーン氏がなぜ立て直しに成功できたのかというストーリーだったように思えてくる。

人員削減に前のめりになった経営陣の判断ミスによって、皮肉なことに、みずほでは当初の計画よりも早く1万9000人の人員削減が実現するかもしれない。このままでは、みずほを見限るパターンで若手、中堅クラスの退職が増え続ける懸念があるからだ。

「時価総額でグローバルトップ5」宣言から20年超

みずほグループは、金融危機がまだ解消していない2000年に誕生した。1999年8月20日、みずほ統合の発表記者会見に登壇した母体3銀行のトップたちは意気揚々として、次のように大見得を切った。

「時価総額でグローバルトップ5を目指す」

3銀行合算ベースでは総資産は約150兆円となり、世界トップの規模になることはすでに明らかだった。時価総額ベースで世界の五指に入る銀行を目指すというのは、質的な面でもトップ級に進化するということを意味していた。

時価総額は、株式の時価と発行済み株式数を掛けて得られる企業評価の尺度の一つである。企業買収がさかんに行われるようになったころから時価総額を重視する傾向がいよいよ強まっていた。発足当初、当時のみずほグループのトップたちはこの時価総額という市場評価を用いて、世界で5位以内の金融グループになると豪語したわけである。

2021年2月のシステム障害は、その宣言から20年が過ぎたタイミングにおいて、みずほグループが自身の立ち位置として表した回答だったといえないこともない。

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