年金は収入の低い人ほど「手厚く」もらえるワケ 基礎年金には「老後の備え」以外の役割もある

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厚生年金保険の場合、給付は報酬比例部分と定額部分に分かれます。報酬比例部分というのは、給料の額に比例して将来の年金給付額が変わる部分です。たくさん給料をもらった人は将来受け取る年金額も多くなります。一方、定額部分というのは基礎年金の部分で、これは現役時代の給料に関係なく一定金額が支給されます。国民年金の支給額が、払い込み期間が同じであればすべて同じ金額になるのと一緒です。

河野氏の年金改革案では仕組みに無理があった

この例の場合、AさんもBさんも基礎年金部分は夫婦合計で13万円となります。一方、報酬比例部分はAさんが9万円、Bさんが4万5000円ですから、これは払った保険料と同じくBさんのほうが半分になっています。この結果、Aさんの年金支給額は9万円+13万円=22万円、Bさんの支給額は4万5000円+13万円=17万5000円となります。

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別な観点からみると、所得代替率(現役時代の手取りの何%を年金の給付額で賄えるか)ではAさんは22万円÷35万7000円=61.6%、一方Bさんは17万5000円÷17万9000円=97.8%ですから、この場合、何とBさんは現役時代とほとんど変わらない収入を年金だけで得ることができるということになります。

夫婦世帯で手取り給与が17万9000円というのは、決して高い給料とはいえません。それだけに、低所得層に対する所得再分配機能として、このように報酬とは関係ない基礎年金部分の存在が大きく役立っているということになります。

これは、河野氏が主張したように税を使って基礎年金部分を切り分けてしまうと、とても実現できない仕組みとなってしまいます。このように、公的年金制度は一見単純ですが、比較的よく考えられた仕組みがビルトインされているということは知っておいてもいいと思います。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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