年金は収入の低い人ほど「手厚く」もらえるワケ 基礎年金には「老後の備え」以外の役割もある

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年金といえば制度や世代間の負担の問題にばかり焦点が当たりがち。だが、日本の年金は老後の備えの役割だけを担っているわけではない(写真:ak_yamauchi/PIXTA)

先頃の自民党総裁選挙では、各候補者の間でさまざまな論争が繰り広げられましたが、中でも話題になったのは河野太郎氏が提言した年金の問題です。年金についてはつねに話題性のあるテーマなので、政争の場では何度も論争が繰り広げられてきました。私は、現在の公的年金制度が万全とまではいえないまでも、かなり安定した制度になっていると思っています。

それに、かつてのマスメディアは年金に関してネガティブな報道が多かったものの、最近ではとてもまともな記事も増えてきています。とくに最近では公的年金の本質が「貯蓄」ではなく「保険」であることが比較的知れ渡るようになりました。

これはとても良いことだと思いますし、年金の本質的な役割として保険機能はとても重要です。ところが、実はあまり知られていないのですが、公的年金にはもう1つ大事な役割があります。

高所得者から低所得者への「再分配」が重要

それは「所得再分配機能」です。所得再分配とはどういうことかというと、高い所得のある人から低い所得の人に対して所得の分配がされることです。といっても、高所得者が直接、低所得者にお金を渡すということではありません。政府がその間に入り、税や社会保障という機能を使って調整していくという役割が「所得再分配」なのです。

これが進みすぎると共産主義社会のようになってしまいますが、さりとてアメリカのようにすべて自助努力で市場機能に委ねてしまうというのもいかがなものかと思います。以前、アメリカの医療問題をテーマにした『シッコ(Sicko)』(2007年、マイケル・ムーア監督)というドキュメンタリー映画がありました。

この映画は慶應義塾大学の権丈善一先生に教えていただいたのですが、自助努力と市場万能主義が行き着くところの社会の病巣が描き出されており、その結果はかなり恐ろしい社会であるということがよくわかります。やはり基本は「自助」であっても、それだけでは足りない部分を「共助」によって賄い、最後のセーフティーネットは「公助」でカバーするというのが最も安定した社会になるのだと思います。

では、日本の公的年金の場合、どういう所得再分配機能があるのでしょうか。

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