渋沢栄一が命狙われた暴漢に金銭支援した深い訳 代表作「論語と算盤」の根底にあった思想とは

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品位ある知行合一の商工業者を輩出するため、そして自分の志を保つために渋沢が重要視したのが『論語』でした。「論語を最も欠点のないものと思ったから、論語の教訓を標準として、一生商売をやってみようと決心した」というのです。論語(道徳)と算盤(経済)は両立できる、いや両立させるべきだというのが渋沢の考えでした。

出世や金儲け一辺倒になりがちな資本主義社会。商売人のなかには、道徳など糞食らえ、儲かりさえすればいいとする人も出てきます。しかし、そうした「道徳と離れた不道徳、詐瞞、浮華、軽佻の商才は、いわゆる小才子、小悧巧であって、決して真の商才ではない」と渋沢は言うのです。

また渋沢は「富をなす根源は何かといえば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することはできない」とも説いています。

仁義道徳と利殖を両立させてこそ、社会はうまく回る

例えば、誰かの役に立ちたい、国のためになる仕事をしたい、困っている人々を助けたいという公共心や道徳心を持っていてこそ、真に有益な商品を開発することができるでしょう。

自分だけが儲かればいいという利己心で動いていたら、そうした商品開発のための発想は生まれようがありません。仮に、一時は儲かったとしても、いつかはさまざまな理由から衰退していく可能性が高い、つまり富の永続はできないと渋沢は考えたのではないでしょうか。

「世の中の得を思うことはいいが、おのれ自身の利欲によって働くのは俗である。仁義道徳に欠けると、世の中の仕事というのは、段々衰えてしまうのである」

「鉄道の改札場を通ろうというに、狭い場所をおのれさえ先へ通ろうと、皆思ったならば、誰も通ることができない有様になって、ともに困難に陥る。近い例をいうと、おのれをのみという考えが、おのれ自身の利をも進めることが出来ない」(『論語と算盤』)

という渋沢の言葉がそれを表しているように思います。健全なる仁義道徳と利殖を両立させてこそ、社会はうまく回っていくのです。

ちなみに、仁義の「仁」とは広く人や物を愛すること、「義」とは物事のよろしきを得て正しい筋道にかなうことです。渋沢の行動を見れば、彼が仁義道徳により動いていることがわかります。従兄の渋沢喜作が出獄したとき、渋沢は身元引受人になっています。

それからも、大蔵省勧業課に迎えるなど就職の世話をし、投機的な取引をして相場に失敗して多額の借金を抱えたときも、援助しているのです。若いころに学問を習った尾高惇忠を富岡官営製糸場の初代所長に推薦したりもしています。これだけならば、親族を優遇していると思われるかもしれませんが、渋沢の仁は親族以外にも広く向けられていたのです。

明治25(1892)年12月11日、渋沢は2人の暴漢に襲われます。

伊達宗城の病気見舞いの帰り道、馬車で兜橋を渡ろうとするところを2人の暴徒が左右から躍り出てきて、渋沢を襲ったのです。暴徒は刀で馬車の窓ガラスを割ったため、渋沢はその破片で左手に軽傷を負いますが、命は助かりました。

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