40分に1本「無料町民バス」実証実験は成功するか 震災10年の津波被災地をたどる・女川雄勝編

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河北線の始発地は仙石線の石巻あゆみ野駅前で、イオンモール石巻、日赤病院、鹿又駅前、上品の郷を経由して旧河北町の中心、飯野川へ至る。1日8往復運転だが、石巻駅など市中心部は経由しない。ほかのミヤコーバスの運転系統を見ても、イオンモールを中心とした西郊の蛇田地区に、新しい中心地が築かれていることがわかる。

上品の郷9時45分発の大須三区線には間に合い、新北上川右岸沿いに下る。マイクロバスで、運賃は300円。1人だけ、ほかに乗客がいた。幅広い川の流れを左に眺めつつ、旧河北町内の何カ所かに停車し、新北上川大橋の南詰で右折。国道398号で峠を越えて、ようやく旧雄勝町に入る。10時11分に終点の雄勝地域拠点エリアに着いた。

防潮堤で守られた中心部

湾の最も奥に位置する雄勝町の中心部も津波で壊滅した後、大きくかさ上げされ、高い防潮堤で守られる土地になった。バス停があるエリアには道の駅などがあり、さらにもう一段高いところに公共施設が並ぶ。なるほど拠点エリアである。

さらに先には、先述の波板方面と大須方面へのバス路線があるが、いずれもデマンド制だ。接続待ちしていたバスの運転士が「乗られますか?」と声をかけてくれ、予約なしでも大丈夫なような雰囲気もあったが、一考して辞退した。要予約で、発着時刻も予約時に決まるデマンドバスが果たして路線バスと言えるのか、ちょっと迷うところもあったからだ。

雄勝地区住民バス(筆者撮影)
石巻市立大川小学校跡(筆者撮影)

その分、ゆったりと海を眺めて過ごすことにして、雄勝地区拠点エリア12時07分発の上品の郷行きで折り返す。そして旧河北町に戻り、新北上川大橋の南詰をめざす。上品の郷や飯野川からの河北地区住民バス大川コースならば、釜谷入口で降りればすぐの場所だ。ここで幹線道路が交差しており、「三角地帯」と地元では通称されているようだ。石巻市立大川小学校の児童74人と教職員10人が津波にのまれ、命を落とした場所である。

かつて、ここ大川や、その先の新北上川河口には大きな集落があったが、今は見渡す限りの平地だ。住民バスが大川ルートを名乗りつつも、手前の釜谷入口で折り返してしまうゆえんである。大川小学校跡は公園として整備されている。私は、見学という生半可な気分では、保存されている校舎に近寄ることができず、ただ手を合わせるしかなかった。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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