享年37歳空手家ベーシストの彼女が遺した生き様 33歳でがん告知、SNSやブログに刻み続けた

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1983年12月、中鉢さんは北海道別海町にある広大な牧場を経営する一家の三女として生まれた。20歳でベースを始め、2005年6月に21歳で札幌を拠点に活動していた3ピースバンド・こけしDollの三代目ベーシストとなる。

こけしDollの解散後にアシュラシンドロームのベーシストとなり、2010年の暮れに上京すると、しばらくして10代の頃に心血を注いだ空手の稽古も再開。以前からバンドの公式ブログやmixiなどで情報を発信していたが、複数のSNSとブログを使うようになったのはこの頃からだ。

世界大会遠征の後に心境の変化

アシュラシンドローム脱退後も「人々」や「the tissue」などのバンドで活動し、空手道の講師・選手の二足のわらじ生活を続ける。かつて全日本空手道連盟の国体強化選手だった実力は復帰後もいかんなく発揮され、JPKF(防具空手道全国防具空手道連盟)や全日本格斗打撃選手権の形の部で優勝するなど好成績を収めていった。その実績から2017年7月には、硬式空手道の世界大会に日本代表メンバーとしてカナダに遠征。ここでも女子一般・形の部で優勝している。

しかし、この頃すでにがんは中鉢さんの体内に広がっていた。帰国後に体調不良が続いたことで診察を受けたときに発覚する。33歳でのがん告知。原発巣のほか3箇所の転移が見つかった。

当初は親にも言えなかった。当然、SNSでもリアルタイムの報告は残していない。抗がん剤治療が始まり不安で押しつぶされそうになりながらも、オンライン上では普段通りを貫いている。ただ、振り返れば心境や環境の変化が読み取れる記述はいくつか見つかる。8月29日のブログ「バッチ血の通わない子」には、こんな日記がアップされた。

<富士山のぼってきました
 (中略)
 夜に出発して下山は翌日昼
 長時間でクタクタだけれど
 登る価値は大いにありました。
 やりたい事を出来るうちに。>
(2017年8月29日 ブログ「バッチ血の通わない子」-富士山/https://ameblo.jp/yuka-bacchi/entry-12308169428.html) 

友人と唐突に富士山に登り、3時間後に都内に戻ってライブのリハーサルに挑む強行軍。その2日後にはTwitterでつぶやく。

<通院通院通院通院
 病院は嫌いだな>
(2017年8月31日 Twitter/https://twitter.com/bacchi1208/status/903122962223579137

空手道の稽古でしばしば怪我していたので、通院の本当の意味を見いだす人はほとんどいなかっただろう。

「バッチ血の通わない子」の日記カテゴリー欄。「抗がん剤治療」の項目だけが残る(筆者撮影)

この頃には家族に病状を打ち明けており、翌月には姉から病気平癒のお守りをもらったと写真付きでつぶやいてもいる。ブログの更新は同年10月で止まっており、最後まで病気に関する言及はしなかった。ただ、日記のカテゴリーには「抗がん剤治療」というテーマが該当記事0件のまま残されている。身体に起きていることを公にすべきか否か。逡巡した痕跡なのかもしれない。

次ページ病状に関する情報を少しずつ表に出すように
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