ほどよく裸になって著者自らをさらけ出す--『ドストエフスキーとの59の旅』を書いた亀山郁夫氏(東京外国語大学学長)に聞く


--私小説的なところもあります。

自分自身をさらけ出したと思っている。それぐらい出さないと読者の心に訴えるものにならない。「その辺のお坊ちゃんがドストエフスキーをやっている」というようなものではすまない。かなりの苦しみを経て、ドストエフスキーと向かいあっているという自分の姿をどうしても見せたかった。だから姉や兄にも許可を得た。義理の姉の焼身自殺の話も書いた。後悔はない。ほどよく裸になったと思っている。

--ドストエフスキーの新訳がどっと出だしました。

多くの人がドストエフスキーの翻訳を始めた。この現象は、ブームが終わったことを示している。私自身は、次に『悪霊』の翻訳を手がけているが、それがまた売れるという保証はもちろんない。

--ドストエフスキー以外の作家はだめですか。

関心がない。私の家系は早死にで、父も母も72歳で亡くなっている。私自身あと10年ぐらいで、たぶん大病をすると思っている。それをうまく乗り越えられればいいが。

その10年、やりたい仕事だけに限定していきたい。ドストエフスキーの翻訳と音楽の本を書く。実はショスタコービッチの原稿はある。これは音楽雑誌に3年ほど連載し、出版社も決まっている。ただし、原稿があるといっても、いざ文章に手を入れるとなると、文献に当たらないといけない。文献に当たれば時間がかかる。いまは難しい。学長を辞めたあとにしようかなと思っている。

(聞き手:塚田紀史 =週刊東洋経済2010年7月10日号)

かめやま・いくお
1949年生まれ。東京外大ロシア語学科卒業、東大大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。『磔のロシア スターリンと芸術家たち』で大佛次郎賞、新訳『カラマーゾフの兄弟』で毎日出版文化賞特別賞。他に『ドストエフスキー父殺しの文学』『「カラマーゾフの兄弟」の続編を空想する』など。

『ドストエフスキーとの59の旅』
日本経済新聞出版社 1995円 286ページ


  
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