ほどよく裸になって著者自らをさらけ出す--『ドストエフスキーとの59の旅』を書いた亀山郁夫氏(東京外国語大学学長)に聞く

ほどよく裸になって著者自らをさらけ出す--『ドストエフスキーとの59の旅』を書いた亀山郁夫氏(東京外国語大学学長)に聞く

新訳『カラマーゾフの兄弟』で名作を蘇らせた著者が、自分自身の人生、現代日本の世情に照らしながら、ドストエフスキーの原点を明らかにしていく。

--「ドストエフスキー体験」は日本の作家の作品に多いですね。

この2~3年、日本の現代作家を集中的に読んできたが、ドストエフスキーをあらためて意識して書き始めているのではないか。さかのぼれば三島由紀夫。大江健三郎から村上春樹、高村薫。辻原登にもある。この本で彼らの作品の中に隠されているドストエフスキーの謎めいたモチーフを断片的に拾い上げた。

--モチーフとは。

「二枚舌」と「父殺し」がテーマ。この本で基本的にドストエフスキーの二枚舌性と父殺しを二つの軸に据えながら、自分自身の中にある同じような資質を発見する。「自伝的なエッセー」といえるのだろうが、私がそれを書いて何になるという思いもなくはない。ただ純粋に、ドストエフスキーとの対話の中で、一人の人間がこうやって生きてきたという事実を読んでもらえたらうれしい。

--「黙過」という言葉も散見されます。

黙過もテーマだ。ただし、父殺しと黙過には類似性がある。『カラマーゾフの兄弟』で父親が殺される。それを知っていながら何もしない、黙過する。黙過は、ドストエフスキーの場合、父殺しの延長上にある。

キーワードを立てながら、つねに考える。それが大事だと思っている。黙過は、人が不幸になるのがわかっていて見過ごす、不作為の罪にも結びつく。そこから人間の意識の深層における罪の問題に及んでいくことになる。

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