42歳で脱サラ就農した男が見つけた「意外な仕事」 「3年でメドをつける」妻との約束から12年…

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妻との約束どおり、生計を立てられるめどが立ったことから定住を決意し、自宅を建てて自家搾油所も設けた。今ではお茶や化粧品など商品も増やし、自社サイトで販売している。

毎朝、すべての木を見て回るのが山田さんの日課だ(写真:山田オリーブ園)

オリーブオイルはリピーターのお客さんに愛され、入手困難なほどの人気商品になった。妻も今春、自宅の庭に「小さなお店」という直売所&カフェを開設。お菓子作りが好きな二人の姉と一緒に、三姉妹でお店を切り盛りしている。

思いどおりにいかないのが農業。きれいごとでは語れないことはたくさんあった。それでも、ほかに道はなかったから踏ん張るしかなかった。その結果が、今だ。

自分が望む働き方で

就農して12年。畑も少しずつ広げてきたが、毎朝、すべての木を見て回り、オリーブアナアキゾウムシを捕まえられる範囲にとどめている。大人気のオリーブオイル一つをとっても市場のニーズはあるはずだが、法人化し事業を拡大するつもりはない。

「せっかく会社を辞めて個人事業主で好きなように仕事をしているのに、人を雇って会社を作ったら自由がなくなってしまう。事業を大きくするには機械などに投資も必要で、結局、お金の算段ばかりになる。それは仕事として面白くないし、自分が望む働き方ではない」。

昨年はノウハウを一冊にまとめた著書『これならできるオリーブ栽培』(農山漁村文化協会)を出版、Youtubeで動画も積極的に公開するなど外への発信にも努めている。

畑一面に草を生やして農作物を育てる「草生栽培」でオリーブを育てている。四季折々の花々が美しい(写真:山田オリーブ園)

一方、「これまで一人で好き勝手に農業をやってきたが、このままずっと同じでは考えが凝り固まってしまう」。そう危機感を持ち、仲間と一緒にオリーブ栽培の体験や研修・教育の場をつくれないか、新しい挑戦も始めている。

食べ物を作ることから、サービスへ。東京の教育業界で勤務した経験が、新しい形で生かされようとしている。時代に合わせて変化しながら、身軽に挑戦を続けられる今の働き方が、山田さんはとても気に入っている。

吉岡 名保恵 フリーライター

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よしおか なおえ / Naoe Yoshioka

1975年和歌山県生まれ。同志社大学を卒業後、和歌山県の地方紙「紀伊民報」で記者として勤務。結婚を機に退職し、国立大学医学部の非常勤職員などを経てフリーに。現在はライターとしてビジネス、教育、ライフスタイルなどを中心に幅広く取材やインタビューを担当。大学時代にグライダー(滑空機)を始め、(公社)日本滑空協会の機関誌で編集長も務めている。

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