中国が考える本当の領土?「国恥地図」実物を入手 「領土的野望」の起源が「この地図」にあった

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それにしても、今、なぜ中国はそれほど地図にこだわるのだろうか。

中国が領土拡張を目論んでいるからか。それとも香港で復刻版が発売されたという「国恥地図」と何か関係があるのだろうかと考えてみるが、見当もつかない。

その頃、私は長編ノンフィクション作品を書いており、それ以外のことは何も手につかなかった。ただ偶然にも、読んでいた資料の中から、かつて中国で「国恥」教育が実施されたという記述を見つけていた。『蒋中正先生年譜長編』という台湾で出版された本で、蒋介石にまつわる記録文書をまとめたものである。どうやら「国恥地図」もそれと関係しているようだった。

2019年3月、5年越しで書いた『戦争前夜――魯迅、蒋介石の愛した日本』が出版に漕ぎつけたのを機に、私は改めて「国恥地図」について調べてみることにした。

ネットを探して、驚いた。中国はおろか、日本やアメリカのサイトでも、ネット販売や古書店のリストから「国恥地図」という名称の地図が、ひとつ残らず消え去っているではないか。ウェブ検索で画像は出てくるが、現物が見当たらない。

中国政府が「地図管理条例」を定めたことで、中国の書店から姿を消したのなら、まだ分かる。だが、海外のサイトや古書店まで一斉に取り扱わなくなったのは、なぜだろう。中国のネット監視による妨害工作だろうか、それとも海外のサイトや古書店が、中国に忖度して自主的に取り下げたのか。謎はいよいよ深まるばかりだった。

小学生用の地理教科書に

ただ幸いなことに、中国が「地図管理条例」を実施して間もない頃、私はたいして重要だとも思わずに、戦前の中国で使われていた小学校用の地理の教科書を1冊、古書店から手に入れていた。

古い本を見ると、つい買いたくなってしまうのは物書きの習性かもしれない。すぐには役立たないとわかっていても、今を逃したらもう二度と手に入らないかもしれないという強迫観念にかられて、反射的に買ってしまうのが習い性になっている。

この地理の教科書には一般的な「中国地図」があり、その裏に「中華国恥図」という名称の地図がある。もちろん教科書の1ページだから、詳細な情報が詰まった地図ではないかもしれないが、とりあえず、この国恥地図を観察することから始めることにした。

後のことだが、この地理の教科書こそ、実は、国恥地図の謎を解明するうえで重大な手がかりを与えてくれる資料のひとつだったと、判明するのである。もっともこの時点では、そうした展開が待ち受けているとは、予想すらしていなかった。

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