中国が考える本当の領土?「国恥地図」実物を入手 「領土的野望」の起源が「この地図」にあった

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さらに拡大鏡を近づけてみると、この赤線に沿って、2mm四方ほどの小さな赤い文字で、その領土がいつ、どのように失われたかという短い説明書きがある。地図全体で35カ所の説明書きが確認できた。例えばサハリンの右側にはこうある。

「俄佔 一七九〇年後喪失 日佔」
(ロシアが占領、1790年以後喪失、日本が占領)

地図左隅には「図例」があり、色分けした区分の帰属説明がある。

現有地=黄色  俄(ロシア)属地=薄緑色  英(国)属地=薄桃色
日(本)属地=薄黄色  法(フランス)属地=水色  自主国=濃い緑色
両属地=濃い緑色と薄桃色の二色

目が釘づけになったのは、その次にある2つの表記、「現今国界(げんこんこっかい)」と「舊時(旧時)国界(こっかい)」だった。

「現今国界」は二点鎖線(―・・―)で示され、現在の中国の国境線を示している。

「舊時(旧時)国界」は破線(― ―)で示され、その上に前述の赤い太線を重ねたもの。「旧時」とは、古い時代を意味し、「旧時国界」は、「古い時代の国境線」を示しているという。

表向きは近代国家でも

つまり、地図には「現在」と「古い時代」の2つの国境線が示されていることになる。驚くべきことに、「古い時代」には、赤線で囲んだ広大な範囲がすべて中国の領土だったと主張しているのだ。

そして赤線と「現今国界」に挟まれた〝領土〟の差、これらを失ったことが、中国の「国の恥」だと訴えるのがこの「中華国恥図」のメッセージなのだ。

『中国「国恥地図」の謎を解く』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

前述したように、第一図の「中華民国全図」と第二図の「中華国恥図」が、裏表に印刷されているのは、実に象徴的と言えるだろう。

繰り返しになるが、この教科書が発行されたのは1933年だ。表向きは、第1図のように、近代国家を打ち出した中華民国政府(1912年樹立)が国際(公)法に基づき、外国との条約を遵守して領土を規定していた。だが、その裏では、第2図にあるように、「古い時代」の国土意識が厳然として存在し続けており、それを子どもたちに教えていたことを、如実に示しているのである。

「中華国恥図」の次ページには、「中国国恥誌略」がある。国恥地図についての解説文で、2ページにわたって細かい文字でぎっしり書かれている。

いったいどのような事柄や歴史的事実を「国恥」だと主張しているのだろうか。

譚 璐美 作家

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たん ろみ / Romi Tan

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。元慶應義塾大学訪問教授。革命運動に参加し日本へ亡命後、早稲田大学に留学した中国人の父と日本人の母の間に生まれる。『中国共産党を作った13人』『阿片の中国史』『戦争前夜――魯迅、蒋介石の愛した日本』など著書多数最新刊に『中国「国恥地図」の謎を解く』(新潮新書)。

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