「消防士は火事の予知夢を見る」説の本当の理由 夢にまつわる不思議を心理学の立場から解説

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「遺伝」のことをまた考えてみましょうか。たとえば、ヘビをみたこともきいたこともない人、つまりヘビに対して「怖い」との印象をもっていない人の悪夢に「ヘビ」がでてくるとすれば、遺伝レベルでヘビの恐怖が刷り込まれている可能性はあるか? そんなことはないはずだと思ってるんだけど、赤ちゃんの実験から人間が生まれつきクモやヘビに恐怖心をもっていることをあきらかにする研究結果が発表されているわ。(注3)

クマよりヘビに恐怖反応

研究をおこなったステファニー・ホッヘル教授は、まだクモやヘビが「危険なもの」というイメージをもっていない生後6カ月の赤ちゃんを対象に、クモやヘビをみせた際の反応を調査したのね。具体的には、クモやヘビ以外にも、お花や魚など危険なイメージがないほかの対象との比較ね。それぞれを初めてみせたときの瞳孔の開き具合や、注視する時間の長さを調べていった。

その結果、花や魚よりもヘビやクモのほうに対してあきらかにストレス反応を示す結果が得られたわけね。実験結果を得て、教授はこんなことをいってるね。

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「ヘビやクモへの恐怖は、人間が進化の過程で身につけた防衛反応だと結論づけることができました。数百万年前の霊長類の時代に木の上で暮らしていたとき、ヘビや毒グモは脅威だったにちがいありません。素早くみつけて素早く逃げる反応が必要だったのです。

ほかの研究では、たとえばクマやライオンなど、もっと危険な動物の画像を乳児にみせても、ヘビやクモほどの恐怖反応を示しません。これは、ヘビやクモと共存し脅威だった期間が、クマやライオンよりずっと長かったからだと思われます」

「結論づけることができた」ってのは、ちょっとだけ引っかかるけど……。ヘビやクモをみるのが本当に初めてだとしても、花や魚はさすがに目にしたことがあるはずなので、究極のところでほんとうに遺伝かどうかをいいきるのはそうとうむずかしいはずだから。

ただ、ほかにも似たような研究がいくつかあるんだよ。日本人の研究者の論文で、サルや3歳児の子がヘビに対して生得的な怖れを示している可能性を指摘しているんだよね。(注4)

注1 エリザ―・J・スタンバーグ(2017).人はなぜ宇宙人に誘拐されるのか? 竹書房.
注2 シェポヴァリニコフ・A・N(1991).夢のサイエンス みたい夢 みたくない夢 青木書店.
注3 Itsy Bitsy Spider... : Infants React with Increased Arousal to Spiders and Snakes https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5651927/
注4 川合伸幸(2011).ヘビが怖いのは生まれつきか?:サルやヒトはヘビをすばやく見つける。認知神経科学,13,1,103−109. https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/13/1/13_103/_pdf
松田 英子 東洋大学社会学部社会心理学科教授

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東洋大学社会学部社会心理学科教授。お茶の水女子大学文教育学部卒、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程単位取得満期退学。博士(人文科学)。専門は臨床心理学、パーソナリティ心理学、健康心理学。産業カウンセリングとスクールカウンセリングを臨床のフィールドとしている公認心理師、臨床心理士である。著書に『夢想起メカニズムと臨床的応用』『夢と睡眠の心理学―認知行動療法からのアプローチ』(以上、風間書房)、『眠る』(二瓶社)、『図解 心理学が見る見るわかる』(サンマーク出版)など。睡眠の改善から心の健康を高めることに関心がある。

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