中国EC大手「京東」が「新型実体企業」を標榜する訳 プラットフォーマー規制を乗り越える秘策とは

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影響力の大きいプラットフォーマーのあり方に関して、さまざまな議論が欧米を中心に行われているが、中国でも同様の課題を抱えている……(写真:show999/PIXTA)
欧米を中心に影響力の大きいプラットフォーマーのあり方に関してさまざまな議論が行われている。大きな利益を上げているのに、雇用創出や納税を通じて実体経済に貢献しているかが焦点の一つになっている。
中国も同様の課題を抱えており、当局によるプラットフォーマーに対する規制強化が続いている。こうした中、大手プラットフォーマーの京東が自らを「新型実体企業」と宣言した。この宣言が中国で物議を醸している。
倉庫や物流などのインフラ投資に注力し、約40万人の雇用をつくり出して社員の福利厚生も重視といった実体企業の属性を持ちながら、デジタル技術のノウハウを擁するため、新型実体企業だという。なぜ京東はこのような動きをとるのだろうか。
チャイナテック:中国デジタル革命の衝撃』を上梓した、趙瑋琳氏がその背景と京東の戦略転換を解説する。

京東が自らを「新型実体企業」と標榜

中国では製品の生産や販売を行う企業、例えば製造業や工場を持つメーカーが「実体企業」と定義されている。これと対照的にオンラインで他のプレイヤーの製品・サービスと消費者(ユーザー)を集め、取引を支えるビジネスが「プラットフォーム経済」と呼ばれ、その最たる例がEC最大手アリババのようなプラットフォーマーである。

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当然、アリババに次ぐEC大手の京東もプラットフォーマーだ。だが、京東は8月からさまざまな場で自社が「新型実体企業」であることを表明している。

8月下旬に行った中間決算で、京東は「わが社は実体企業の属性とデジタル能力を併せ持つ新型実体企業であり、プラットフォーム経済と根本的な違いがある」と宣言し、従来のプラットフォーマーのポジショニングから決別しようとする動きを見せている。

また、9月上旬に開催された「2021年中国EC大会」では、京東の新CEOである徐雷氏は「デジタル技術を翼に、新型実体企業の発展経験をもって実体経済の発展を促す」とのテーマで基調講演をし、「京東が創業から実体経済に根差しサービスを提供してきた。京東が名実ともに実体企業だ」と強調した。

■実体経済に活路を求める

プラットフォーマーに対する規制強化が続く中、京東の動きが物議を醸している。政府系メディアでは称賛する声がほとんどだが、「身を守るための動きだ」と違和感を覚える人も少なくない。

中国の経済(政治)環境では多くの企業にとって、“実体”が魅力的な言葉だ。中国では生産年齢人口(15~64歳)が減少しているものの、雇用の確保が大きな課題である。加えて、製造業をはじめとする実体経済を重視するのが中国政府のスタンスだ。

しかしプラットフォームビジネスに取り組むプラットフォーマーは、破壊的創造の力と力強い先進性を持っていても雇用の創出や整備投資は多いとは言い難い。

だからこそ、どんな業界のどの企業も自身が実体経済との関連性および貢献を強調しようとしている。

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