自民党総裁選の3候補の経済政策を総ざらいする アベノミクスとの距離やコロナ後成長戦略に違い
自民党総裁選への立候補を表明した高市早苗前総務相、岸田文雄前政調会長、河野太郎行政改革担当相の3人が掲げる経済政策は、アベノミクスとの距離感やコロナ後の戦略などに違いが見られている。
総裁選の推薦人確保で安倍晋三前首相の支援を得た高市氏は、大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略を3本柱とするアベノミクスの継承・発展を提唱する。一方、岸田氏は規制緩和・構造改革で生じた格差の是正を訴え、河野氏も個人をより重視する経済を目指す考えを示している。
新型コロナウイルス感染症による危機を乗り越えるため、新たな経済対策の実施に全員が意欲を表明した。2%物価目標の達成を財政再建よりも優先する高市氏、成長の果実の分配見直しで中産層復活を目指す岸田氏、デジタル化・グリーン化による成長加速を掲げる河野氏と、それぞれ独自色を打ち出している。
高市早苗氏
日本初の女性首相を目指す高市氏は、成長戦略として大胆な危機管理投資・成長投資を行う「日本経済強靭(きょうじん)化計画」(サナエノミクス)で「経済を立て直し、成長軌道に乗せる」と主張する。物価目標達成までは基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化目標を凍結し、戦略的な財政出動を優先させる考えを示している。
- 新たな経済対策:一刻も早い補正予算編成・成立目指す
- 金融政策:2%物価目標達成まで金融緩和は継続
- 財政政策:
- 緊急時の機動的な財政出動
- 物価目標達成までPB黒字化目標を凍結
- PB赤字でも名目金利上回る名目成長率達成すれば財政は改善
- 消費税:下げる選択肢はない
- 金融所得課税:逆進性が大きいため増税
- 原子力:
- 平和利用は必要
- 小型核融合炉を国家プロジェクトとして支援
- 災害対策:10年間で100兆円の投資
- 他の重要な提案:
- ロックダウンを可能にする法整備を検討
- 定額給付金の再給付を検討
- 給付付き税額控除を検討
岸田文雄氏
岸田氏は、規制緩和と構造改革は日本経済の体質強化と成長をもたらしたが、「富める者と富まざる者の分断」も生んだと主張する。小泉政権以降の市場原理を重視した新自由主義からの転換を掲げ、中間層の復活に向けて「国民を幸福にする成長戦略」と「令和版所得倍増のための分配施策」を掲げている。
- 新たな経済対策:数十兆円規模の対策を速やかに実施
- 金融政策:大胆な金融政策と2%物価目標を堅持
- 財政政策:機動的な財政政策を堅持
- 消費税:当面触ることは考えていない
- 金融所得税制:税率のカーブが下がる「1億円の壁」打破へ見直す
- 原子力:
- クリーンエネルギーの選択肢
- 既存の原発の再稼働をしっかり進めることが大事
- 災害対策:5年間で15兆円の投資
- 他の重要な提案:
- 経済安全保障担当の専任大臣を設置
- 科学技術への投資拡大、10兆円規模ファンドを年度内に設立
河野太郎氏
河野氏は、アベノミクスで企業は利益を上げたが、賃金まで波及しなかったとし、「個人を重視する経済を考えていきたい」と表明。インフレ率は「経済成長の結果からくるもの」と2%物価目標の達成を疑問視する。成長戦略ではデジタルとグリーンをイノベーションの核とした競争力強化を訴える。脱原発が持論だが、「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進める」と現実路線に修正した。
- 新たな経済対策:
- 規模感はもう少し研究したい
- 原資は国債にならざるを得ない
- 金融政策:
- インフレ率はスタートでなく経済成長の結果
- 2%物価目標の達成はかなり難しい
- 金融政策は日銀にある程度任せる必要。日銀はしっかりと市場と対話を
- 財政政策:
- さまざまな議論が必要-基礎的財政収支の扱い
- 有事の財政出動は避けられない
- 消費税:今のところ考えていない-消費減税
- 金融所得課税:税率の一定程度引き上げなどの対応を検討
- 原子力:
- いずれ原子力はゼロになる
- 安全確認された原発の再稼働が現実的
- 原発の新増設は現時点で現実的ではない
- 災害対策:自然災害から命を守る持続可能なインフラを残す
- 他の重要な提案:
- 全国でテレワークできる5Gネットワーク構築
- 労働分配率が高い企業への税制優遇検討
- 企業から個人を重視する経済を考えたい
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著者:青木勝
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